角膜内皮細胞が様々な原因で傷害されると、角膜が浮腫状に混濁して視力が極端に低下し、最終的に激しい痛みを伴う水疱性角膜症を発症する。これまでは「全層」角膜移植術が唯一の根治的手術療法であった。ただし、本術式は角膜全層切開に起因する眼球の脆弱性、縫合糸に関連した感染症、拒絶反応、高度角膜乱視、術中駆出性出血など様々なリスクを伴っている。近年、角膜内皮のみを交換する手術(角膜内皮移植術)が可能となり、様々な術式の改良を経て、現時点ではDSAEK(Descemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplasty)が水疱性角膜症に対する第一選択の手術術式として欧米を中心に行われている。ごく最近、デスメ膜と内皮細胞のみを移植する究極の角膜内皮移植術であるDMEK(Descemet’s Membrane Endothelial Keratoplasty)が提唱され、欧米のごく一部の術者の間で実験的に試みられている。 今回の研究の目的は、デスメ膜と角膜内皮細胞層のみからなる角膜内皮シートを移植する最新の角膜内皮移植術(DMEK)の術式の確立と術後視機能の評価である。本術式は技術的な難易度が極めて高いため、安定した術後成績を得るための専用器具の開発を予定していたが、当初の計画どおり、デスメ膜を除去する器具、ドナー作成を安定して行える器具、ドナーのセンタリングに有効な器具を開発することに成功した。また、レーザー共焦点顕微鏡や前眼部光干渉断層計などを用いたDMEK後角膜の超微細構造の詳細な生体解析(2次元および3次元構造)とその経時的変化の解析を行った。これらの研究から、日本人の水疱性角膜症眼に対しても安全にDMEKを行うことが可能となった。
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