研究課題
L/M視物質遺伝子アレーの解析: 新たな43例の先天色覚異常例におけるL/M遺伝子アレーを解析した。正常遺伝子型(先頭L、後続M )は6例であり、L遺伝子プロモーターの変異(-99T>G)、L遺伝子イントロン2の変異(+3A>C)、M遺伝子プロモーターの変異(-71A>C、3例)を見出した。また、女性の正常遺伝子型(両アレーとも先頭がLで後続がM)が1例あった。-71A>Cの解析: 日本人の2型色覚において頻繁に見出されてきたM遺伝子プロモーターの塩基置換(-71A>C)の意義を明らかにするため、甲状腺ホルモン(T3)とその受容体(TRb2)によるM遺伝子プロモーターの活性化を検討した。その結果、-71Aプロモーターと異なり、-71CプロモーターはT3-TRb2系による活性化を受けにくいことが判明した。T3-TRb2系はL/M錐体の分化に必須であるが、それにL/M視物質の発現が充分に伴っていない可能性が考えられた。エキソン3スキッピングの回避方法の模索: L視物質のエキソン3の特殊なハプロタイプ(LIAVA多型)により、スプライシングにおいて同エキソンがスキップされてしまうが、エキソン3を保持させることができれば、色覚異常を直せる可能性がある。この目的で、エキソン3の保持をGFPの蛍光で検出できる細胞系を確立し、様々な薬剤の効果を調べたところ、細胞骨格の阻害薬により蛍光が出現することが分かった。リアルタイムPCR法によりエキソン3を保持したmRNAは、陽性コントロール(スキップされないエキソン3を持ったミニジーン)を100%として、1%以下であったのが上記薬剤により15%程度まで回復していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
正常な視物質遺伝子アレー(先頭にL遺伝子、後続にM遺伝子)を持つ先天色覚異常例を日本人において頻繁に見出してきた。そのM遺伝子においては-71A>Cの塩基置換がしばしば認められていたが、今回、L/M錐体の分化に必須のT3-TRb2系が、-71Cプロモーターを活性化しにくいことがわかった。-71A>Cの意義を、iPS細胞を用いた分化系や、WERI細胞を用いたゲノム編集を用いて明らかにする予定であったが、これらを使うことなく色覚異常における-71A>Cの意義の一端を明らかにすることができた。一方、L遺伝子においては、LIAVA多型による色覚異常がこれまで2例あった。これらの例においてはスプライシングにおいてエキソン3がスキップされることが色覚異常の原因と考えられたので、エキソン3を保持する薬剤を探索し、いくつかの候補薬剤を見出した。実際の臨床応用には克服すべき課題が多いが、エキソンを保持させる薬剤の存在を見出したことはその第一歩といえる。以上2点を明らかにしたので、本研究の目的は順調に達成されていると考えている。
T3-TRb2系がM遺伝子プロモーター活性化する機序を明らかにし、-71Cプロモーターを活性化して十分な視物質を持つM錐体を誘導する方法を模索する。LIAVA多型によるエキソンスキッピングの回避に関しては、蛍光によってエキソン保持を検出する細胞系を確立したので、様々な薬剤を調べる。また、異常が全く見つからなかった正常遺伝子型のL/M遺伝子では、さらに上流や下流の解析を行い、色覚異常の原因を明らかにする。
iPS細胞の作製およびその培養と、ゲノム編集に必要な経費を組んでいたが、これらをしなくともプロモーターの塩基置換(-71A>C)の意義を明らかにすることができたため謝金等が不要であった。また、学会が近隣で開催され、旅費が殆ど要らなかったことも理由としてあげられる。
遺伝子の発現誘導を行うための様々な薬剤の購入に充てる。旅費は他の研究者との打ち合わせに、謝金その他は論文掲載費用(1編は現在J Biochem誌において印刷中である)に充てる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件)
Hypertens Res
巻: 38 ページ: 244-251
10.1038/hr.2014.165.
Human Mutat
巻: 35 ページ: 1354-1362
10.1002/humu.22679
Invest Ophthalmol Vis Sci
巻: 55 ページ: 6686-6690
10.1167/iovs.14-14079