研究課題/領域番号 |
25462733
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
樋口 明弘 慶應義塾大学, 医学部, 講師(非常勤) (20383755)
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研究分担者 |
山崎 岳 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (30192397)
向井 邦晃 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (80229913)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 局所合成ステロイドホルモン / シトクロムP450 / 涙腺 / 涙液分泌 |
研究実績の概要 |
本研究は下記3項目に従って、涙腺における局所ステロイド産生を明らかにし、その生理的役割を解明するものである。 「1.涙腺における局所ステロイド合成活性測定法の確立」これまでの活性測定にはトリチウム標識された基質を用いてきたが、ステロイドの中には標識されたものが市販されていないものもある。26年度は質量分析装置(MS)を用いた、アイソトープを使用しない測定系を確立することにした。非標識ステロイドを基質として涙腺ミクロソームを用いて反応させた後、生成物をLC-MS/MS法により同定した。プロゲステロンを基質とした場合には、17α-ヒドロキシプロゲステロン(17OHP)、デオキシコルチコステロン(DOC)が検出され、これらのステロイドの生成反応を触媒するシトクロムP45017α(P45017α)、P450c21の活性を測定することが可能となった。 「2.In vitro における涙腺組織による涙液産生測定系の確立および産生に対するステロイドの影響の検討」ラット涙腺を培地中でインキュベーションし、培地中に分泌される涙液タンパクを涙液産生分泌マーカーとして測定することした。25年度はマーカーとしてリゾチームを用いたがばらつきが大きいため、26年度はラクトフェリンを用いることにし、EIA法によるラクトフェリン測定系を確立した。 「3.ドライアイモデルにおけるステロイド産生」26年度はタバコ主流煙(TS)曝露によるドライアイモデルを用いて解析を進めた。このモデルは、ラットをチャンバー内でTSに全身曝露させることにより、角膜障害と涙液分泌低下を引き起こさせるものである。正常ラットおよびTS曝露ラットより涙腺を採取し、リアルタイムRT-PCR法により発現解析を行った。P45017α、P450c21の発現上昇、3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3β-HSD)の発現低下が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、目的達成のために下記3項目の小目的を掲げ、研究を推進している。項目ごとに達成状況を検討する。 「1.涙腺における局所ステロイド合成活性測定法の確立」25年度までは5α-還元酵素、3β-HSDなど非P450系ステロイド合成酵素の活性のみが測定可能であり、P450の酵素活性は測定できなかった。26年度はLC-MS/MS法を用いた高感度な測定系を確立できたため、P45017α、P450c21の活性が測定可能となった。また、LC-MS/MS法はアイソトープ標識体が市販されていないステロイドも基質として用いることができるため汎用性が高く、操作が容易であり、自動化されているためスループットも高い。LC-MS/MS法を用いた活性測定系の確立により、非P450系ステロイド合成酵素の活性測定も効率的に実施できるようになった。多くの酵素の活性変動を解析することにより、ドライアイモデルにおけるステロイド産生の変動を明らかにすることが可能となった。 「2.In vitroにおける涙腺組織による涙液産生能測定系の確立および産生に対するステロイドの影響の検討」涙液中主要タンパクであるラクトフェリンは、涙腺産生分泌マーカーとして用いることができると考えられる。26年度はEIA法によるラクトフェリン測定系を確立し、大量サンプルの同時測定が可能となった。 「3.ドライアイモデルにおけるステロイド産生」リアルタイムRT-PCR法および免疫組織染色法によるステロイド合成酵素定量系が確立したため、26年度はTS曝露による涙腺機能低下モデルと正常ラットを用いて、涙腺ステロイド産生の比較検討を開始した。その結果、リアルタイムRT-PCR法により一部酵素の発現変動が認められた。これまでに確立した免疫組織染色法、LC-MS/MS酵素活性測定法を用いて、この発現変動に関する詳細な解析ができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は目的達成のために下記3項目の小目的を掲げ研究を推進している。以下に項目ごとに研究推進方策を記載する。 「1.涙腺における局所ステロイド合成活性測定法の確立」26年度に確立したLC-MS/MS法による高感度測定系を用いて、様々なステロイドを基質として活性測定を行い、各酵素の活性を算定する。具体的には、17-OHPを基質としたP45017α、P450c21酵素活性、プレグネノロンを基質とした3β-HSD活性、アンドロステンジオンを基質とした17β-HSD活性などである。また、コレステロールやデオキシコルチコステロンを基質としたミトコンドリアにおけるP450scc、P45011β活性の測定も検討する。17α-ヒドロキシプレグネノロン、デヒドロエピアンドロステロン、エストラジオールなどLC-MS/MS法では検出感度の低いステロイドもある。これらのステロイドが生成物となる反応ではアイソトープ標識基質を用いるか、反応生成物を誘導化して検出感度を上昇させることを検討していく。 「2.In vitroにおける涙腺組織による涙液産生能測定系の確立および産生に対するステロイドの影響の検討」確立したEIA法によるラクトフェリン測定系を用いて、ラクトフェリンを涙液産生分泌マーカーとして測定する。涙腺サンプルを均一化するために、涙腺切り出し法の調整、サンプルの厚みの均一化、を行い、安定した涙液産生分泌測定系の確立を目指す。 「3.ドライアイモデルにおけるステロイド産生」26年度に確立したLC-MS/MS酵素活性測定法を免疫組織染色法、リアルタイムRT-PCR法と組み合わせて、TS曝露による酵素発現量、酵素活性変動を明らかにする。さらに、LC-MS/MS法により涙腺中ステロイド濃度を測定して酵素活性の変動との関連性を明らかにするとともに、局所ステロイドの涙液分泌における役割を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
あらかじめ使用を予定していた試薬を本年度購入したとき、廉価に入手できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
主流煙曝露のためのタバコ購入費に組み込んで使用する。
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