研究実績の概要 |
網膜色素変性は遺伝子異常に端を発する網膜視細胞の進行性変性を基盤とする遺伝性網膜変性疾患である。申請者のグループは、網膜色素変性モデルラット(RCSラット)における網膜変性の進行にカルシウム依存プロテアーゼであるカルパインが重要な働きをしており(Mizukoshi S, et al. Exp Eye Res 2010)、ミトコンドリアカルパイン-1を特異的に阻害する新規ペプチド(カルパインペプチド)投与により視細胞死を抑制できることを見いだした(Ozaki T, et al. BBA 2012)。本研究は、この新規視細胞保護治療法をウサギなどの中型動物にも応用し、その効果の普遍性を確認することを目的とした。 前年度までの研究により、ウサギにおいてカルパインペプチドの濃度を調整することによって、点眼にて後眼部までペプチドを移行させうることを明らかにした。このことは将来このペプチドを点眼による視細胞保護治療薬として臨床応用できる可能性を示唆している。そこで、当該年度においては研究の将来の発展性を鑑みてまず、ヒト皮膚細胞からiPS細胞の作製に挑戦した。これは臨床試験に代わってiPS細胞にて人工的に網膜細胞を作成してその細胞の変性に対してペプチドが保護的に働くことを確認することを目的とする。その結果、とりあえず本年度においてはヒトiPS細胞の作製に成功した。これは次年度以降の研究に応用することとした。また、ヒト由来細胞の変性に対してラット用ペプチドが効果を示すかどうかをヒト網膜色素上皮細胞を用いて培養下に検討したところ、その効果はみられず、ヒト由来細胞にはヒト特異的なカルパインペプチドの合成が必要であることが新たに判明した。
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