研究実績の概要 |
糖尿病網膜症の初期神経病変は不可逆的で水面下で蓄積していくため、長期的には視機能の障害に直結する。神経網膜において糖尿病ストレスに感受性が高い細胞は網膜神経節細胞(RGC)であり、dendriteを含めて早期から障害されることからRGC neuropathyと定義している。RGC neuropathyの神経保護・再生促進目的に網膜3次元培養を用いて有効な治療戦略の確立を模索して検討してきた。培養液に終末糖化産物AGEを負荷し、同時に栄養因子であるNT-4, HGF, GDNF, TUDCAの神経保護・再生促進作用を同時に比較検討した。さらに、神経節細胞層(GCL)における転写因子NF-kB, SP1の免疫活性についても検討を重ねた。種々の栄養因子はどれも有意に再生突起数を増加させたが、NT-4が最も再生促進作用が強かった。また、NF-kBの免疫陽性率はAGE負荷で有意に増加し、栄養因子付加で有意に低下した。このことからNF-KBは細胞死に促進的に関係しているものと思われた。しかしながら、SP1はAGE負荷で発現増加した後、栄養因子付加でその発現が持続的に高値をしめした。このことからSP1の持続発現が神経栄養因子の神経保護・再生促進作用に重要であることが示唆された。これらの結果は糖尿病ストレス環境における神経細胞死や、神経保護・再生のメカニズムの理解に有用な情報を提供するものと思われる。また、将来のin vivoでの治療戦略の1つの手がかりを与えたと考えられる。
|