研究実績の概要 |
水痘帯状疱疹ウイルス (VZV) は、免疫健常者の前眼部に限局したヘルペス性虹彩炎を起こす一方で、網膜に主病巣をもつ急性網膜壊死の原因ともなりえるが、これらは同じVZVによって生じるにもかかわらず、それぞれが独立した病態である。しかし、VZVが免疫健常者の眼内に二つの異なる病態を形成する理由については未だ解明されていない。近年、VZVの野生型株は7つの遺伝学的系統群(Clade 1-5, VI, VII)に分類されることが明らかとなっており、その分類はVZV遺伝子配列内のいくつかのopen reading frame (ORF) の一塩基多型 (SNPs) を解析する事で識別される。そこで本研究では、VZVによる虹彩炎または急性網膜壊死患者の眼内に感染しているVZVの遺伝学的差異を明らかにするために行われた。そのために、虹彩炎や急性網膜壊死の原因となる他のウイルス、すなわち単純ヘルペスウイルスやサイトメガロウイルスをそれぞれ同定、鑑別するための新規多項目迅速PCRシステムの開発を行った。また、急性網膜壊死患者に対する蛍光眼底造影検査における網膜動脈の特徴的な分節状組織染色パターンを同定し、急性網膜壊死の診断感度に役立つものとなった。これらにより診断が確定された患者の眼内液から抽出したVZV遺伝子の属する系統群を解析したところ、これまでの解析では全てがClade 2に属することが明らかとなった。現在、両疾患におけるVZVの遺伝学的差異の有無を調べるため、VZVと標的細胞の細胞膜との融合や、感染細胞内におけるVZVの複製に重要な役割を果たすとされるグライコプロテインEの突然変異株や、ウイルス感染の伝播速度やVZV感染細胞に対する抗体の特異的認識領域に深く関与するグライコプロテインE領域のアミノ酸配列の変異株の検索を行っている。
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