研究課題/領域番号 |
25462779
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
藤田 恵子 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (80173425)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 肝芽腫 / 血管新生 / 腫瘍血管 / スフェロイド / 培養 |
研究実績の概要 |
申請者は小児肝臓の悪性腫瘍で最も罹患率の高い『肝芽腫』におけるがん幹細胞の分離・同定法を確立し、肝芽腫幹細胞をターゲットとした新たな治療法開発のため、肝芽腫幹細胞とその維持に関与する周囲微小環境である腫瘍血管との関係の解明をめざして研究を推進してきた。 がん細胞の増殖過程にはその周囲をとりまく微小環境(ニッチ)が大きく影響している。申請者は肝芽腫幹細胞による腫瘍血管の構築機構を解明するために、がん幹細胞のマーカーのひとつであるCD133の発現局在を中心として検討した。 培養肝芽腫細胞におけるCD133の発現は糸状仮足と葉状仮足の複合体に局在していた。また、インターロイキン6受容体(IL-6R)もCD133と同様に糸状仮足と葉状仮足の複合体に存在していた。培養細胞がコンフルエントの状態ではCD133は主に細胞間に発現し、IL-6Rは細胞分裂している細胞に発現していた。細胞の状態により両者の細胞内における局在が異なり、働きも異なることが示唆された。 培養肝芽腫細胞からside population法を用いてがん幹細胞を分離し、免疫不全マウスに移植し腫瘍の再構成を確認した。形成された腫瘍組織を用いてスフェロイド培養を行った。無血清浮遊培養条件下で、がん細胞由来の細胞集塊(スフェア)が形成され、スフェアにはCD133陽性細胞が認められた。形成された浮遊スフェアを用い、コラーゲンゲル3次元培養を行った。スフェアの中心付近は酸素分圧の低下により、低酸素誘導因子であるhypoxia inducible factor-1α(HIF-1α)発現の亢進がみられた。さらに、スフェアの周囲に多数の細胞が遊走し、また、電子顕微鏡による観察でチューブ様構造も認められた。遊走細胞の一部とチューブ様構造はCD133陽性であり、CD133陽性細胞から腫瘍血管新生の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は小児肝臓の悪性腫瘍である『肝芽腫』におけるがん幹細胞の分離・同定を確立し、肝芽腫幹細胞をターゲットとした新たな治療法開発のため、肝芽腫幹細胞とその維持に関与する周囲微小環境である腫瘍血管との関係の解明をめざして研究をすすめた。本研究の目的である、① 肝芽腫幹細胞の微小環境を構成する腫瘍血管の血管新生分子機序の解明、② 腫瘍血管形成過程における肝芽腫幹細胞の関連性の解明 について、がん幹細胞のマーカーのひとつであるCD133の発現局在の検討を中心に、ほぼ計画通りに実験をすすめることができた。 ただし、今まで依頼していた外部業者によるカスタマーサービス(フローサイトメーターによる細胞ソーティング)がサービス中止・終了となってしまったため、細胞分離、免疫不全マウスへの細胞移植、腫瘍からの細胞培養(スフェロイド培養)の再実験を実施することができず、この点では少々実験が遅れてしまった。 本年度の実験により得られた結果は1つの国際学会ならびに2つの全国学会において発表することができた。さらに、原著論文としても公表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25、26年度に得られた結果をもとにして、さらに肝芽腫幹細胞と腫瘍血管との関係について実験をすすめていく予定である。今までの実験で依頼していた外部業者によるカスタマーサービスが中止となったため、細胞分離、免疫不全マウスへの細胞移植、腫瘍からの細胞培養(スフェロイド培養)の再実験が遅れていたが、平成26年度末に本学でも申請者が必要な細胞分離用の機器が増設されたため、今後は本学において自ら細胞分離を行い、実験を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の実験計画において、分離した肝芽腫細胞を免疫不全マウスに投与し腫瘍を形成させる実験計画であった。 本学には細胞を分離するフローサイトメーターは設置されているが、本実験に必要な細胞を分離できる波長のレーザーが搭載されていないため、細胞の分離はカスタマーサービスを利用していた。しかしながら、依頼業者の都合によりサービスが中止となってしまったため、計画を次年度に延長せざるを得なくなってしまった。このため、カスタマーサービスに支払う予定の額ならびに関連実験に必要な額を次年度に使用することとなった。なお、2015年3月に実験に必要な細胞が分離できる波長のレーザーが増設されたので、次年度に実験を遂行する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
肝芽腫細胞を分離する過程において必要な細胞分離用の試薬購入並びに本実験に関連する試薬・器具の購入に充填する予定である。
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