研究課題/領域番号 |
25462781
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
奥山 宏臣 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30252670)
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研究分担者 |
阪 龍太 兵庫医科大学, 医学部, その他 (00459190)
久保 秀司 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (10441320)
佐々木 隆士 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (20388573)
柳原 格 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), その他部局等, その他 (60314415)
野瀬 聡子 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (90467564)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | サーファクタント / 消化管 / 膵臓 / 肝臓 / toll-like receptor / 壊死性腸炎 |
研究実績の概要 |
近年、消化管にはサーファクタント蛋白(SP)の4つのサブクラスのうちSP-AとSP-Dが存在し、腸管粘膜のバリアー機構としての役割を担っていることが明らかとなってきた。一方、低出生体重児においては、壊死性腸炎をはじめとした重篤な消化管機能障害を合併する頻度が高く、腸管粘膜のバリアー機構の未熟性が問題となる。そこで本研究では、消化管サーファクタント蛋白と腸管粘膜のバリアー機構の未熟性との関連性を明らかにして、低出生体重児における消化管機能障害の病態を解明することを目的とした。 平成25年度はヒト胎児検体を用いて免疫組織染色を行い、SP-AとSP-Dがヒト胎児膵臓で発現していることを明らかとした。在胎期間の異なるマウス胎児消化管にはSP-AとSP-Dが存在し、その主な産生部位は妊娠後期の胎児膵臓であることが明らかとなった。以上の成果をまとめてOpen Journal of Pediatricsに論文発表した。 平成26年度は,ヒト膵臓におけるSP-Dの発現に注目し,肝・胆道系疾患の発生に関与しているか検討を行った.具体的には小児外科における難治性疾患である胆道閉鎖症を中心に胆汁鬱滞性疾患の肝臓検体を用いて免疫染色を行った.結果としては胆汁鬱滞性疾患では肝内にSP-Dが著明に貯留しており,肝臓が胎児期・新生児期にSP-Dを産生し,胆道系に排泄していることが示唆された.SP-Dの界面活性作用を考慮するとこれらの難治性疾患の発生に何らかの関与がある可能性も考えられた.以上の成果をまとめてJournal of Pediatric Surgeryに論文発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、「消化管サーファクタントの欠乏が低出生体重児における腸管機能不全の発生に関与する」ことの検証である。初年度はマウス胎仔の膵臓および消化管にSP-A、SP-Dが存在していることが示された。肺のSP-AとSP-Dに関する最近の研究では、SP-AとSP-Dは病原微生物と結合してその増殖を抑制するだけでなく、マクロファージを介した抗炎症作用を持つことが報告されており、SP-AとSP-Dは肺胞粘膜のバリアー機構として重要な役割を担うものとして注目されている。従って、胎児消化管にもSPAとSPDが存在するという初年度の成果は、低出生体重児の未熟な腸管粘膜バリアー機構の解明に向けた極めて重要なステップとなる。今年度は更にヒト胎児/新生児期に肝臓でもSP-Dが産生されていることを示し,胆汁鬱滞性疾患では肝内に貯留することが示された.胆道閉鎖症をはじめとした難治性疾患の研究に有用であるばかりではなく,新生児腸管には肝・膵からのSP-Dが流入していることが示唆される. SP-A及びSP-DのKOマウスの入手は困難であるため、ヒト胎児消化管培養細胞を用いたin vitroモデルにより今後の研究を進めている.胎児腸管由来の細胞に血小板活性化因子(PAF)投与して、TLR4活性が亢進した腸上皮モデル(未熟腸管モデル)を作成,エンドトキシンを作用させた壊死性腸炎モデル細胞を確立し,SP-Dによって炎症が抑制されるかを検討している. 3年目には、ヒト胎児消化管培養細胞を用いたin vitroモデルの実験結果をまとめ、論文発表する予定である。今後は壊死性腸炎モデルの小動物を用いてSP-Dが壊死性腸炎の予防・治療に有用であるか検討を行いたい. これまでの研究成果はすでに2本の論文として発表されており、次年度以降の研究につながる重要なステップとなった。
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今後の研究の推進方策 |
低出生体重児における消化管機能障害の中でも、最も予後不良な壊死性腸炎の発症機序に関しては、近年分子生物学レベルでの解明が進んできた。ヒトの未熟腸管では、炎症反応をup-regulateするtoll-like receptor (TLR)の活性が亢進していることが明らかとなっており、このことに起因する過剰な炎症反応が壊死性腸炎の発症に関与していることが示唆されている。SP-Dによって,この過剰な炎症反応を制御しうることが示されつつあり(論文投稿中),今後は動物実験を行いたい. 壊死性腸炎モデルの動物は妊娠SDラットを用いる.早産(20日目)せしめたラットに人工乳を投与する.人工乳投与前には低酸素(5%O2)に暴露することで作成する.このモデルは佐藤らが2013年に発表している研究でも用いられ,TNFα/IL-6などのサイトカインやTLR4/TLR2の検討も問題なく行えている.このラットに与える人工乳にSP-Dを添加することで小腸の組織学的所見,炎症性サイトカイン,TLR4の変動を検討する. 以上の実験系で、SP-Dの添加によりTNFαやIL8の産生抑制やTLR4の発現低下が示されれば、SPの抗炎症作用,また壊死性腸炎の実際の治療への道筋を示すことができる。 これまでの研究で胎児期より消化管にはSP-AとSP-Dが存在しその主な産生部位は胎児期後期の膵臓および肝臓であることが示された。SP-AとSP-Dの産生が始まる前に出生する早産児(低出生体重児)では、消化管SPは欠乏状態にあると考えられる。このSP欠乏状態が、消化管機能障害を引き起こす要因であると推測される。本研究により消化管SPの役割,および補充療法の有用性が明らかになれば、低出生体重児における消化管機能障害の病態解明と予防法の確立が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
SP-A及びSP-DのKOマウスの入手は困難であるため、ヒト胎児消化管培養細胞を用いたin vitroモデルにより研究を進めている.このため、ヒト胎児消化管培養細胞の導入が当初の計画よりやや遅れたため、研究分担者の分担金の一部に今年度未使用分があり次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、サーファクタント蛋白Dによるヒト腸管細胞におけるLPSによる炎症の制御についての実験を継続予定である。この実験に要する細胞培養試薬、解析試薬に引き続き使用する予定である。また今年度は最終年度であるため、研究結果を国内学会、国際学会で発表し、論文発表する予定である。
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