研究実績の概要 |
神経移植では組織血流の低下による瘢痕組織形成がシュワン細胞の増殖を阻害し軸索再生を妨げるとされる。本研究では組織血流と移植神経の軸索再生との定量的相関関係を明らかにすることを目的とした。 尾側からの栄養血管を茎としたラット坐骨神経弁をvascularized nerve graftモデルとして作成、non-vascularized nerve graftモデルでは移植神経を完全に組織から遊離させた。これらの神経の血流量はレーザードップラー血流計で妥当性が検証された。移植部位の血流は放射線照射を行うことで低血流組織野を作成する計画であり、この点が本研究の最大の特色であった。しかし平成27年夏に本学の放射線照射装置が使用不能となり大幅な実験計画の変更を余儀なくされた。 代替実験として、100%エタノール液を移植部位に注射することで組織障害を起こし瘢痕組織の作成を試みた。同一ラットの注射部位と対側の非注射部位の組織血流比を血流計で検討したところ、注射部位の血流低下を認めた(n=6, 注射あり組織血流値/注射なし組織血流値=0.461)。これらのモデルを用いて神経移植を行い、軸索再生の電気生理学的評価としてラット坐骨神経を電気刺激し腓腹筋で活動電位の振幅および潜時の測定を行った。 しかし、放射線照射では坐骨神経は防護し移植神経への影響を軽減する予定であったが、100%エタノール液の場合は注射後も長時間にわたり注射部位からの逆流が起こり、移植部位だけでなく移植神経にも障害を及ぼした。注射量を調整し注射後2時間神経を移植床より剥離し接地しない状態を保ったが、それでも神経障害を認めた(n=6, 注射あり:潜時 2.48ms, 活動電位 4.16mV、注射なし:潜時1.51ms, 活動電位 7.53mV)。そのため代替実験では適切な条件の作成が困難であるという結論に至った。
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