引き続き、免疫抑制が不要である近交系のLewisラットを用いて、同性間で精巣移植を行った。しかし、これまでと同様に精巣移植後のラットの生存率は50%程度と低いままであった。精巣動脈が腎動脈から分岐しているものは、腎動脈を血管茎として移植出来、生着率も比較的良好であった。しかし多くの場合は精巣動脈が下大動脈から分岐しているため、精巣動脈基部は細すぎて吻合に適さないため下大動脈を血管茎として移植したが、大腿動脈との口径差が大きく生着率は低かった。術式や吻合技術の改善を行っても、生着率は改善しなかった。 移植精巣が生着したものに関しては、3週間後に血清テストステロン値をELIZA法によって定量した。その結果、正常ラットと同程度の血清テストステロン値を示した。しかし、組織を採取してH-E染色を行って精子形成を検索したところ、精子の形成は認めなかった。移植精巣が生着しているにも関わらず精子が形成されない原因としては、精母細胞はテストステロンを産生する間質細胞よりも虚血に弱い可能性が考えられた。そこで、虚血時間を短縮するよう手術術式等に配慮して移植を行った。しかし、それでも精子形成には至らなかった。最終目標として、LewisラットからGFPトランスジェニックラットへの同性間精巣移植を行い、生殖幹細胞のcell traffickingの解明を目指していたが、移植精巣における精子形成が認められないため、GFPトランスジェニックラットを用いた実験は断念した。
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