未固定屍体を用いた顔面静脈解剖において、顔面の静脈還流経路の全体像の確認を行うことが出来た。研究代表者が肉眼観察を行った全ての屍体の眉間部において、両側の眼角静脈を交通する太い静脈が存在した。また前額部から眉間部にかけて、静脈は基本的に頭尾側方向に走行していることが判明した。さらに両側の眼角静脈付近から、それぞれ1本の太い上行静脈を確認することが出来た。この上行静脈の起始部は主に3つの分岐パターンがあり、走行についても3つのパターンがあることが判明した。 太い上行静脈の末梢では、皮膚に近い浅層において多角形静脈網が形成されていた。この多角形静脈網から浅層の皮下に向かって多数の小上行静脈が立ち上がっていた。これらの構造から、顔面の静脈網は基本的に階層構造をなしていると考えられた。各階層間では軟X線造影検査で憩室様に写し出される静脈弁の存在を確認できた。この静脈弁は3種類存在した。静脈弁の存在により、浅層方向への血液の逆流を強力に防止する機構があると考えられた。 動脈と静脈は眼角部以外では基本的に互いに独立した走行をしていた。例えば滑車上動脈には伴走静脈は存在せず、代わりに動脈外壁に細かく発達するvasa vasorumが存在することが分かった。このvasa vasorumは真皮に向けて直接立ち上がる小上行静脈や、多角形静脈網との間に交通枝を有していた。 眼窩周囲には眼を取り巻くように太い静脈網が存在した。同静脈の外側から鼻唇溝付近の顔面静脈にかけて頬静脈(仮称)が存在したが、これは必ずしも太くはなく、描出が困難な屍体も存在した。頬静脈には弁が存在しており、尾側から頭側方向への血液の逆流を防いでいると考えられた。さらに口唇周囲を取り巻く静脈の存在も確認できた。これらは主に鼻唇溝付近の顔面静脈から分岐していた。
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