1.炎症性サイトカインによって惹起される炎症性細胞死がどのような長鎖不飽和脂肪酸で抑制されるかを検討し、オメガ3系、オメガ6系に関わらず、広く二重結合を持つことが細胞保護作用に関連していることを確認した。また、リポキシゲナーゼやシクロキシゲナーゼがこの系で細胞保護的に作用せず、一方アスピリンが細胞保護作用を示すことも確認した。以上の知見は、アラキドン酸カスケードの活性化が炎症の増幅に重要であるという従来の考え方に一石を投じるものとして脂質バイオロジーにおいて極めて興味深いと考えられる。 2.ヒト肺胞上皮細胞由来A549における不飽和脂肪酸の細胞保護作用については高い再現性をもって確認でき、さらに、適応できる濃度が極めて広範囲であるという(毒性が少ない)点で、臨床的に最も期待できる脂肪酸としてはオレイン酸と決定することができた。一方DHAやEPAは同様の細胞保護作用を発揮するも安全な濃度範囲は狭く、サプリメント等を介しての安易な摂取は好ましくない可能性も示唆された。 3.不飽和脂肪酸の細胞保護機構については未知のG蛋白共役型受容体(GPCR)を仮定して検討を行ったが、結論としてはGPCRに由来するシグナルの動きは確認できなかった。 4.一方A549細胞以外の培養細胞で不飽和脂肪酸の細胞保護作用を検討し、マクロファージ系の細胞でも同様の細胞保護作用を見いだした。 5.ただし、不飽和脂肪酸単剤では炎症性サイトカインによる細胞死のレスキュー効果は必ずしも十分とは言えなかった。そこで、不飽和脂肪酸との共投与によって細胞保護効果を増強しうる薬剤を検討した。最終的に、不飽和脂肪酸との組み合わせではなく、デキサメサゾンとラパマイシンのみの共投与で、それぞれの単剤としての効果を遙かに凌駕する細胞保護作用を持つことを見いだした。
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