研究課題/領域番号 |
25462818
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
朝倉 英策 金沢大学, 大学病院, 准教授 (60192936)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 播種性血管内凝固症候群 |
研究実績の概要 |
播種性血管内凝固症候群(DIC)は、基礎疾患の存在下に全身性持続性の著しい凝固活性化をきたし、微小血栓の多発する重篤な病態である。予後改善のためには、感度および特異度の高い診断基準の作成と、病態に応じた適切な治療介入が必要である。しかし、DICモデルを用いた我々の検討では、炎症を伴う線溶抑制型DICモデルに対して充分な抗凝固療法を行っても臓器障害や炎症の増悪は不可逆的であり、凝固活性化以外の要素が病態に関与していると考えられる。血管作動性物質は、DICの循環動態や臓器障害に影響を与える可能性が高いが、その意義はほとんど検討されてこなかった。今回、DICモデルでの血管作動性物質の発現機序を解明し、内皮障害、微小血栓形成、臓器障害との関連を検討する。 臨床で遭遇するDICにおいては、敗血症に合併したDICに代表されるように臓器障害が前面に出る線溶抑制型DIC、急性白血病に代表されるように臓器症状はみられないが出血症状が前面に出る線溶亢進型DIC、その中間の線溶均衡型DICに分類される。動物DICモデルにおいては、LPSまたは組織因子(TF)のいずれで誘発するのか区別されることなく使用されてきた。しかし我々は、両モデル間に、凝固線溶病態のみならず炎症の観点から大きな病態の差違が見られることを解明した。このため、DICの病態解析には両モデルでの比較が不可欠で、DIC研究の根幹に関わる点である。 診断基準にも病態を考慮した概念が導入されるべきであるが、この度公開された新しい診断基準には我々の検討内容も踏まえられており、数々の学会で発表した。 動脈瘤は慢性に経過する線溶亢進型DICを併発する。経口抗凝固薬であるワルファリンはDICを改善せずに出血を悪化させるが、新規経口抗凝固薬であれば著効することを欧文誌で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DICの病型分類は、DICの病態解析、診断、治療法の開発などDIC研究の根幹に関わる重要な概念である。線溶亢進型DIC、線溶均衡型DIC、線溶抑制型DICといったDICの病型分類は我々が世界で最初に提唱した考え方であるが、DIC専門家の間でも多くの議論があった。我々がこれまでに蓄積してきた臨床DICおよびDICモデルを用いて行ってきた数多くの研究結果を欧文論文としてまとめ世に発信した。また、研究代表者は「臨床に直結する血栓止血学」という書籍編集の機会に続いて、「しみじみわかる血栓止血 vol.1 DIC・血液凝固検査編」(単著)発刊の機会をいただいた。これまでの、臨床および動物モデルにおける数々の研究結果もふまえDICの病態、診断、治療について深い洞察を加えた書籍であり日本におけるDICの教育、研究、臨床の向上に役立つものと信じている。 DICの診断のためにも病型分類の概念は重要である。この度、血栓止血学会から発表された新しいDIC診断基準は病型分類の概念を踏まえており、委員会での検討内容を含めて数々の学会で報告した。 遺伝子組換えトロンボモジュリンは、抗凝固活性のみならず抗炎症作用を合わせもつ優れた薬剤であり、臨床の現場での処方頻度も増えている。一方でDICの転帰は基礎疾患に依存することが大きいと言われるなかで、造血器悪性腫瘍や固形癌に合併したDICに対してどの程度有効であるか不明であった。我々は、造血器悪性腫瘍や固形癌に合併したDIC症例を詳細に検討して、遺伝子組換えトロンボモジュリンが有効であることを報告した(Thromb Res 2014, Int J Clin Oncol, in press)。 動脈瘤は線溶亢進型DICを併発することで知られている。新規経口抗凝固薬(NOAC)がDICに対して有効であることを明らかにして報告した。現在も有効例が蓄積されている。
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今後の研究の推進方策 |
DICモデルの作成:ラットを使用し、DIC惹起物質であるLPSまたは組織因子を尾静脈より持続点滴し、DICモデルを作成する。DIC惹起物質投与前、投与中、投与後における血小板数、フィブリノゲン、PT、Dダイマー、アンチトロンビン(AT)、TAT、PAIによりDICの発症、病型(線溶抑制型DICまたは線溶亢進型DICのモデルであるか)を確認する。 LPS誘発DICモデルとTF誘発DICモデルの病態比較検討:両DICモデルにおいて、凝固線溶動態のみでなく、血管作動性物質(エンドセリンETおよび一酸化窒素NO)の動態観察、ETおよびNOの発現臓器を同定することにより両DICモデルにおける血管作動性物質のDIC病態への関与・役割を考察する。 DICにおけるNO産生に関与するNOSアイソザイムの同定:両DICモデルの臓器におけるiNOS-mRNA、eNOS-mRNAの発現程度を評価することにより、NO産生に関与するNOSアイソザイムを同定する。我々の予備実験により、LPS誘発DICモデルと組織因子誘発DICモデルのいずれにおいても血中NOXは著増するが、LPS誘発DICモデルではiNOS-mRNA発現が著増しているのに対し、組織因子誘発DICモデルではiNOS-mRNAの発現はなく、他のNOSアイソザイムがNO産生に関与しているらしいことを観察中であるが、アイソザイムの同定には至っていない。 各種NOSインヒビター投与によるNO産生への影響:両DICモデルに対するアイソザイム特異的NOSインヒビターの投与に伴うNO産生への影響を観察することにより、NO産生に関与するNOSアイソザイムを確認可能である。また、特異的NOSインヒビターの投与に伴う、凝固線溶病態、微小血栓形成、臓器障害、血行動態への影響を評価することにより、両DICモデルにおけるNOの役割を明らかにする。
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