血管内皮は炎症や虚血再灌流傷害の際に臓器と同様に重要な役割を果たし、様々なシグナル伝達を介してメディエータとして働いていることがわかっている。生体内では血管内に血液が流れることによってシェアーストレスがかかり血管内皮が様々は反応を起こしている。このため灌流を行った状態での各種の反応を捉えることが目標としていた。当初の計画では血管内皮を低酸素、灌流状態に置いた後で再灌流し、その際の血管内皮の細胞機能や活性酸素の定量、細胞内のシグナルの変化を測定する予定であった。しかし我々の施設にある装置では完全な低酸素を実現することが困難であったので、やむを得ず模擬的(化学的)虚血状態(エネルギー枯渇状態)を作り、静止モデルで細胞内カルシウム濃度を測定した。ブタ下行大動脈を培養し、第一世代を用いた。大動脈シアン化カリウムと2-デオキシ-D-グルコースを用いて化学的エネルギー枯渇状態に曝された細胞をその後、再度細胞培養液を用いてエネルギ-供給できる状態で培養し、細胞機能の変化について観察した。蛍光顕微鏡を用い、fura-2/AMを用いて細胞内カルシム濃度比の変化を比較した。コントロール群との比較ではブラジキニンによる細胞刺激での細胞内カルシウム反応が小さくなるが、完全に抑制されるわけではないことがわかった。また、小胞体のCa2+ATPase阻害薬であるサプシガーゲンでの刺激でも同様に、細胞内カルシウム反応が小さくなることがわかった。これらから、エネルギー枯渇状態の後に再度通常状態に戻して培養した血管内皮では細胞の機能の一部が変化することがわかった。血管内皮からのPGI2産生についても検討したが、これについては明確な結果が得られなかった。
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