本研究の目的は、急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)における肺胞上皮細胞のバリア機能の破たんに対して、肺胞上皮細胞増殖因子(Keratinocyte Growth Factor:KGF)の遺伝子治療で効果が上がるか否か検証することである。 KGF遺伝子導入にあたり、KGF発現アデノウイルスベクターを作製した。またこの遺伝子を効率よく、傷害を受けた肺胞上皮に運ぶ目的で、中胚葉幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)にウイルスベクターを感染させた。MSCは炎症部位に遊走する性質を利用するためである。KGF発現アデノウイルスベクターにはGFPタンパク質をタグとして付け、GFPをマーカーとしてMSCでの発現を確認できた。 肺傷害の動物モデルとしては、Cecal ligation and puncture:CLP敗血症モデルを作製し、間接型ARDSを想定した。MSCにKGF-GFPアデノウイルスベクターを感染させたグループ(KGF群)、MSCにGFPアデノウイルスを感染させたグループ(コントロール群)において、CLP術後7日目までの生存率、全身の炎症、肺傷害の程度の比較(病理組織学的、生理学的、免疫組織学的検討)を行った。2群間で炎症の程度、肺傷害の程度に差ができず、今回の実験系では、KGFによる治療的な効果について主命することはできなかった。
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