研究課題/領域番号 |
25462832
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
中村 明夫 帝京大学, 医学部, 講師 (70266287)
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研究分担者 |
宮川 誠 帝京大学, 中央動物実験施設, 教務職員 (80398734)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | β2アドレナリン受容体 / 敗血症 / 副腎皮質ステロイド薬 / エピジェネテイクス / 腎臓 / TNFーα |
研究実績の概要 |
以下本年度の研究実績である。 1.細胞内分子レベルの反応からの検討:腎臓のβ2アドレナリン(β2AR)細胞内伝達系のどの構成因子がグルココルチコイド(GC)細胞内代謝機構のどの分子に作用し、敗血症により抵抗性を示すGC細胞内代謝機構をどのように調節するのか、またエピジェネテイクスがどのように関わりその結果、炎症に関連するTNFーα遺伝子の発現をどのように制御するかを各代謝段階の阻害薬を用いて検討した。その結果、cAMP-PKAの情報伝達系が、11βHSD1とGRαと、ヒストン脱アセチル化酵素HDACを調節することでヒストンアセチル化を制御し、TNF-α遺伝子発現転写活性を抑制することを明らかにできた。 2.生体内レベルでの検討:CLPによる敗血症モデル動物におけるβ2AR活性化とGCの腎傷害防止効果を、エピジェネティック制御機構、特にどのヒストン修飾因子がTNF-α遺伝子発現に関わるかを解明するために以下の実験をおこなった。(1)ヒストン修飾の定量的解析では、アセチル化ではH3K9Acのみが敗血症では有意な増加を示し、これはβ2AR刺激薬とGCを投与することで抑制された。一方脱アセチル化に関わるH3K9me2, H3K27me3, H4K20meは変動を示さなかった。敗血症によって亢進するTNF-α転写活性をβ2AR活性とステロイドが抑制する場合には、ヒストン修飾因子としてH3K9アセチル化因子が強く関与することが明らかになった。(2)ヒストンアセチル化の酵素化学反応の解析では、敗血症によって亢進するHDAC, HAT活性の調節機序にβ2AR活性とステロイドが関与することが判明した。(3)Chip法を利用したTNF-α遺伝子プロモーターへのヒストン修飾因子の特異的解析では、H3K9AcとH3K27Acがβ2AR刺激薬とGCを投与により低下し、これらの相加効果も認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの実験結果から、腎臓のβ2アドレナリン(β2AR)を活性化させグルココルチコイド(GC)を投与する治療方法が、敗血症に伴う腎傷害の細胞内と生体内の病態改善に有効であることを、以下の細胞内レベルと生体内レベルから確認できた。 1.細胞内レベルでの解析:敗血症病態下で腎障害に関連する血液細胞、マクロファージ、腎尿細管上皮細胞を使用した。生化学的解析では、β2ARからの情報伝達系が、敗血症により減弱したGC細胞内代謝機構の諸分子(11βHSD1とGRα)を回復させ、ヒストンアセチル転換酵素HATを抑えヒストン脱アセチル化酵素HDAC活性を調節することで、NF-κB(p50,p65)活性を抑制し、それらの結果として炎症関連遺伝子あるTNF-α遺伝子発現を減弱させることを確認できた。また、Chip法を利用したTNF-α遺伝子プロモーターへのヒストン修飾の特異的解析では、H3K9AcとH3K27Acがβ2AR刺激薬とステロイド薬の投与により増加し、これらの相加効果でプロモーター活性が抑制されることを認めた。一方メチル化でも、β2AR活性化状態でH3K4me3はプロモーター活性を抑制し、H3K27me3はプロモーター活性を促進させたが、、NF-κBとの関連性は明らかにできていない。 2.生体内反応レベルから検討:腎組織内のβ2ARを過剰発現させた敗血症AKIモデル動物(CLP)にデキサメサゾンを濃度別に投与した結果、腎機能の改善、組織所見の改善、TNF-αの組織内分布および遺伝子発現の低下が認められた。一方、CLPによる敗血症モデル動物におけるβ2AR活性化とGCの腎傷害防止効果を、エピジェネティック制御機構の面からも解析し、細胞内レベル実験と同様の結果を得た。 以上よりこれらの成果は本年度までに達成する目標であったため、“おおみね順調”に実験は進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、β2アドレナリンを活性化しグルココルチコイドを投与する治療方法が、敗血症に伴う腎傷害の病態改善に有効であり、その有効機序を解明するために、エピジェネティック制御機構、特にヒストン修飾動態から解析する予定である。今までのヒストン修飾動態の解析実験結果は、ヒストンアセチル化は転写活性に働き、メチル化は転写抑制するとした従来理論と一部異なっている。従って論文発表・作成にはこの実験の再現性を確かめる必要がある。そのうえで、今年度中にデータを再度分析し、それらの結果を学会発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を計画通り遂行するためには、当初予定の科研費年間予算額だけでは不足することが判明した。これは、研究課題である本治療法の機序解明と有効性の検証をエピジェネテイクスの面から更に進める必要性が出てきたためにある。従って、この不足分を補てんするため昨年度に民間財団の助成金を申請し採択を得た。昨年度と今年度は主にこの助成金を使用して実験を行った。次年度に不足する予算額は、今年度予算の一部を回すことで対応する必要性から次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画:1.細胞内分子レベルでの検討:敗血症病態下で腎障害に関連する血液細胞、マクロファージ、腎尿細管上皮細胞を用い、β2ARからの情報伝達系が、敗血症により減弱したGC細胞内代謝機構の諸分子にどのように作用し、その結果として炎症調節作用に関わる細胞内転写因子とヒストンアセチル化現象の反応をどのように制御するかを更に明らかにする。2.生体内レベルでの検討:研究課題である本治療法が、腎臓の炎症・免疫・内分泌・神経系にどのように作用するかを調べ、敗血症病態の誘導因子(PAMPs、Alarmin)の阻害や他臓器不全(脳、肺、心臓、肝臓)への進展防止に役立つかどうかを検討する。また、生体内からも本治療法がヒストンアセチル化をどのように制御するかを解析する予定である。3.すべての実験結果をまとめて分析し、その結果を学会発表する。批評を受けながらさらに論文作成に取り組む予定である。
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