研究実績の概要 |
敗血症は、全身に急激な炎症反応を認める病態であるが、時に多臓器不全を引き起こす。治療法としては循環・呼吸管理や抗菌薬投与などの対症療法が主流であるが、敗血症におけるステロイド療法の評価は定まっていない。一方、β2アドレナリン受容体(β2AR)活性化には炎症調節効果を用いた敗血症治療法(β2AR受容体療法)が紹介されている。我々はβ2交感神経受容体(β2AR)が副腎ステロイドの抗炎症効果を増強することに注目し、これらを併用することで敗血症による腎障害の軽減効果を期待できると考え、生体内および細胞内反応レベルからその機序解明を試みた。研究方法として腎臓のβ2AR遺伝子を活性化させた敗血症動物 (CLP)とLPS添加メサンギウム細胞をモデルとして用い、それぞれに副腎ステロイド薬を投与しその併用効果を検討した。 これらの研究結果から、β2AR受容体療法と副腎ステロイド薬の併用により①生存率・腎機能の改善、②腎糸球体間質病変は不変、③変動した血液生化学所見や炎症性サイトカインの改善、④cAMP-PKA活性化を通じてグルココルチコイド(GC)代謝機構の回復、⑤特にGC受容体の回復による転写因子(NFκ-B、AP-1、CBP)を通じてのTNF-α転写活性の正常化、⑥cAMP-PKA系とGC受容体の相互作用によるTNF-αmRNAレベルの正常化、⑦その正常化へヒストン修飾因子(HDAC,HAT、H3K9Ac)が関与する事を観察した。 以上から、β2AR受容体療法は副腎ステロイド薬と組み合わせることで敗血症からの生存率を高め腎障害進展を予防すると結論した。この組み合わせ機序は、cAMP-PKA系とGC受容体の相互作用による効果であることを明らかにした。その効果によるヒストン修飾因子の関与したTNF-α遺伝子発現調節機序を通じての作用が、敗血症腎傷害の軽減に有効な結果をもたらしたと考えている。
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