研究課題/領域番号 |
25462833
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
北沢 貴利 帝京大学, 医学部, 講師 (90505900)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | endocan / 敗血症 / バイオマーカー / 菌血症 |
研究実績の概要 |
内皮細胞特異的分子-1(endothelial cell specific molecule-1, endocan)はデルマタン硫酸のプロテオグリカンで、腫瘍細胞でも認められ、乳癌、肺癌などで転移、増殖の危険因子となり得る一方、敗血症、敗血症性ショックの症例を対象にした過去の研究で、endocanは上昇していた。本研究では、これまで検討されていなかった敗血症を含め感染症の経過とendocanの血清濃度がどのように推移するのかについて解析した。 非担癌症例であり菌血症合併の敗血症症例51例、非敗血症性の感染症症例25例を研究対象とした。血液培養(非敗血症では感染部位からの検体培養)陽性日を0日として、前向きに0、1-2、3-5、6-9日の血清を採取し、endocan濃度をELISA法にて測定した。また同時にCRP、プロカルシトニンを測定した。各バイオマーカーの推移と臨床因子の関連について解析した。 この解析によりendocanは感染症の経過において、また血液培養陽性症例と陰性症例との比較では、血液培養陽性症例で発症初期に、有意に高値を示した。一方でCRP、プロカルシトニンでは発症初期の両群の値に有意差は認められなかった。Endocan 1.7ng/mlをカットオフとし、高値群と低値群に2分したところ、高値群で血液培養陽性の頻度が高く、多変量解析では有意差は認めなかったが、血液培養陽性とendocanの血清値に関連のある傾向が示された。 以上より、endocanは従来のバイオマーカーと比較して、敗血症、特に血流感染症の初期において上昇するバイオマーカーであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
敗血症症例における血清endocan濃度と病態進行の関連性を解析する臨床研究は平成25年度内に症例の登録し、解析も施行された。一方で、内皮細胞におけるendocanの産生機構の解析については、平成27年以降に解析を行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
臨床研究では、血流感染症とendocanの上昇の可能性が示唆されたため、今後は血流感染症の持続性、治療効果とendocanの推移など、血流感染症に焦点をあてた観察研究を推進する予定である。
基礎研究ではLPSがendocanの産生・分泌の誘導因子であると考えた場合、TNF-αを介する間接的な結果なのか、LPSを介した直接のシグナル伝達によるものか明らかとなっていない。まずTNF受容体での結合を阻害し、endocanの産生・分泌がどの程度抑制されるかを解析する。細胞は正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いTNF-αの受容体に対する結合抑制にはTNFR1及びTNFR2の中和抗体を処理する。LPS刺激によりendocanの分泌が、中和抗体未処理の細胞と比較して相違があるのかをELISAを用いて定量する。この解析から、endocan産生・分泌の主たる原因が、PAMPsによる直接作用なのか、サイトカインストームと呼ばれるTNF-αなどの過剰産生がもたらしているかを推測できる。 また、endocanがLPS以外のPAMPsでもendocanの産生能を有する可能性が推測されるが、誘導するPAMPsの特異性を検証した報告はない。本研究では黄色ブドウ球菌由来のペプチドグリカン、真菌由来のZymosan、ssRNAといった代表的PAMPsで刺激し、endocanが産生されるのかELISA法を用い研究協力者が解析する。この解析でendocanの産生が、特定のPAMPsのみ誘導されるのか、敗血症全般でおこる現象かを確認できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の初期の予定では、内皮細胞におけるendocanの産生機構の解析を計画していたが、実施しなかったため、計画に関連する実験試薬の購入は行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度において、内皮細胞および抗体など計画に関連する実験試薬を購入、分子細胞学的な解析を行う予定である。
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