マウスへの4NQOの飲水投与による化学発癌実験を行ったところ、口腔と食道粘膜に前癌病変および扁平上皮癌が誘発された。この病変を免疫組織学的に解析すると、ヒトにおける病変と同様に、Notch1の発現の減弱と、ケラチン13の発現の減弱、ケラチン15の発現の減弱あるいは発現領域の拡大を示した。 次に、Notch1発現をケラチン14プロモーターを用いて上皮特異的に導入したトランスジェニックマウスを作成し、その表現型を調べた。上皮の形質に大きな異常を認めなかったため、4NQOの飲水投与による化学発癌実験を行い、野生型マウスとの比較解析を行っている。次にCRISPR-Cas9技術を用い、Notch1を標的としたsgRNAと、ケラチン14のプロモーターによるCas9の発現を誘導するトランスジェニックマウス(扁平上皮特異的Notch1ノックアウトマウス)を作成した。このマウスはキメラ状のノックアウトパターンを示し、皮膚や粘膜にNotch1遺伝子の変異を持ち、Notch1タンパクの発現の見られない領域が現れた。このマウスは体毛の斑状の欠損と、毛の形成の不全および毛嚢の過形成を示した。この表現型はCre/loxPシステムを用いた作成された扁平上皮特異的なコンディショナルノックアウトマウスと同様の変化であり、われわれの方法によるノックアウト戦略が機能していることの傍証となった。さらに、このマウスを用いて4NQOによる化学発癌実験を行うと、野生型マウスに比較して食道癌の易誘発性を呈した。以上より、Notch1が腫瘍抑制遺伝子として食道癌発生に重要な役割を果たす可能性が示された。
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