研究課題/領域番号 |
25462865
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
関 幸子 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 研究員 (90447491)
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研究分担者 |
池田 通 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (00211029)
松浦 正明 公益財団法人がん研究会, がん研究所がんゲノム研究部, 部長 (40173794)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 口腔扁平上皮癌 / 予後予測 / 病理診断 / 統計解析 / podoplanin / EMT |
研究概要 |
長崎大学歯学部における約15年間の口腔扁平上皮癌症例のパラフィン包埋ブロックから必要な切片を薄切した。また、H・E染色所見を検討し、かつ患者の臨床情報に基づき、基礎データを作成した。その過程で、上皮―間葉移行(EMT)現象が実際起きていると判断される症例が約10症例見いだされた。これらEMTが起こっていると思われる部位以外では軽度から著明な程度の炎症反応が起きていた。炎症反応は好中球が浸潤する非特異的自然免疫反応と、リンパ球が関与する獲得免疫反応がともに見られ、腫瘍の進展に大きな影響を及ぼしていることが疑われた。そこで、EMT関連の免疫組織化学染色を実施するに先立ち、これら炎症反応を病理組織学的に(-),+, ++, +++の4段階に分類し、これが患者の予後と関連しているか否かを統計学的に詳細に検討した。多変量解析の結果、好中球の浸潤が強い症例、リンパ球の浸潤が強い症例については、ともに有意に予後がよいことが判明した。 さらに、効果的な予後予測モデルを構築するため、EMTのマーカー以外に腫瘍の増殖または転移に関与することが疑われているマーカーとして、腫瘍の転移と深い関係があると強く示唆されているpodoplanin (aggrus)をモデルに追加することとした。そこで、podoplaninの発現と予後との関連を免疫組織化学染色、染色結果の解析及び統計学的に多変量解析で確認したところ、podoplaninは独立した予後予測因子であり、かつ年齢、TNM分類のT及びN分類と組み合わせたモデルで最も高い精度で予後予測をすることができることがわかった。 今回の結果は、予後との関連が疑われているが病理診断検査にはほとんど応用されていないpodoplaninのような因子も、効果的なモデルを構築することで臨床応用に結びつくことを示しており、本研究の主旨に沿う重大な結論をもたらした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に必要な症例の選択、薄切切片の準備、および臨床データの整理が極めて順調に進んだ。その結果、基礎データとして腫瘍の病理組織所見を詳細に検討している過程で、好中球及びリンパ球浸潤がともに重要な予後予測因子となることを示唆するデータが早々と得られた。さらに、臨床応用に有利な効果的なマーカーとしてpodoplaninの発現と予後との関連を確認したところ、podoplaninが独立した予後予測因子であり、効果的に予後を予測するための新たなモデルを構築することに成功し、この成果を学術論文としてまとめ、採択された(Pathol. Oncol. Res. in press)。これらの成果は、当初の計画を上回るものである。
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今後の研究の推進方策 |
基礎データとして得られた炎症反応と口腔扁平上皮癌の予後との関連に関し、詳細な統計解析を継続することで、新たな予後予測モデルを構築する。また、その成果を学術論文に発表する。また、最終目的であるEMTと予後との関連に関し、EMTのマーカーについて免疫組織化学染色を行い、その結果を病理組織学的に解析する。また、これらの解析結果を、早ければ今年度後半から統計学的に解析する。さらに、ヒト口腔扁平上皮癌の細胞株を手に入れたことから、これらの細胞を用いたin vitroでの各種マーカーの発現を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末にデータの分析作業に入り、特に必要とする物品等が少ない時期が続いたため、少額の残金が生じた。 少額の残金であるため当初の計画を見直す必要は全くなく、物品費として使用する予定である。
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