研究実績の概要 |
悪性腫瘍の最終診断は病理診断によってなされることから、同じTNM分類の病期に属する症例において予後予測に寄与できる因子を見出すことは臨床病理学的な意義が非常に高い。そのため今年度は、口腔扁平上皮癌症例のうち進行しているstage III, IVの41症例に絞り込み、TNM分類が類似するという制約内で効果的に予後予測可能な因子を見出す方針で研究を進めた。因子としては、口腔扁平上皮癌で予後との関連が疑われているものの炎症反応に着目した。その結果、癌胞巣中に微小膿瘍の形成があり、かつ、癌胞巣周囲に患者の癌免疫に寄与しているはずのNK細胞が少ない群が、そうでない群よりも有意に予後が良いという結果を得た。またその理由として、悪性度の高い癌細胞周囲ほどNK細胞が集まりやすいものの、十分に排除できないことが病理組織所見から強く示唆された。(Oncol. Lett., in press) さらに、口腔扁平上皮癌の予後に関与していると疑われているが、報告にばらつきがあり決定的な情報が不足しているE-カドヘリンとN-カドヘリンの発現についても検討した。カドヘリンは上皮の接着分子で、E-カドヘリンがもともとある上皮型カドヘリン、N-カドヘリンは上皮-間葉移行で間葉系に変化しつつある癌細胞が発現すると考えられる間葉型カドヘリンである。癌細胞はE-カドヘリン(+)/N-カドヘリン(-)からE-カドヘリン(+)/N-カドヘリン(+)、さらにはE-カドヘリン(-)/N-カドヘリン(+)に変化するにつれて分化度が低く予後が悪いと考えられる。全てのstageの口腔扁平上皮癌76症例について浸潤部位全体または、浸潤先端部位における免疫組織化学染色の評価を行ったところ、N-カドヘリンの強い発現が予後予測に関与し、浸潤部位全体の評価も浸潤先端部位の評価も同様に予後予測に有用であることが判明した。(論文投稿準備中)
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