研究概要 |
歯周病は多菌種が関わる混合感染であり、歯の喪失をはじめ、糖尿病、動脈硬化などの全身疾患とも関わりがあることが報告される。代表的な歯周病原細菌であるグラム陰性偏性嫌気性菌Porphyromonas gingivalis は様々な病原因子を産生するが、なかでもゲノム上に3つコードされているジンジパイン(Kgp, RgpA, RgpB:トリプシン様プロテアーゼ)は自身も病原因子となるだけでなく、本菌の線毛、凝集素など他の病原因子の成熟化にも関る重要な因子である。 研究目的の1つはジンジパインがプロテアーゼ活性を獲得するまでの過程を明らかにすることである。ジンジパインはいずれもシグナル配列 (sp)、プロ領域 (pro)、プロテアーゼドメイン (PD)、Ig-like ドメイン、C 末端領域がコードされている。これらは、内膜、外膜の2つの膜を輸送されたのち、菌体表層付近でおのおののドメインに切断され、プロテアーゼ活性を獲得し、大部分が膜結合型として、一部が分泌型として菌体外へ分泌される。5つのドメインのうち、Ig-like ドメインがプロテアーゼ活性獲得過程に重要な役割をもつことが明らかとなってきた。Ig-likeドメインを欠失したジンジパインは菌体内で分解され、活性獲得にいたらない。この分解には、細胞内タンパク質品質管理に関わるHtrAプロテアーゼが関わっていることが分かった。HtrAは異常な構造をとるタンパク質を分解し、正しい構造のタンパク質に対しては分解活性を示さないことから、Ig-like ドメインを欠失したジンジパインは正しい構造をもちえていないことが示唆された。また、Kgp, RgpA, RgpB は同じプロテアーゼファミリーに属しているものの、自身のIg-likeドメインによってのみプロテアーゼ活性獲得にいたることから、各々特異性の高いIg-likeドメインをもつことがわかった。プロテアーゼ活性獲得にいたる過程において、ジンジパイン分子のfolding の一端を明らかにすることができた。
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