S. anginosus の口腔癌発症機序の解明を目的として,S. anginosus菌由来生理活性物質であるSAAによる歯肉上皮細胞からの長期刺激によるAIDタンパク質発現,およびS. anginosus菌由来生理活性物質であるSAA遺伝子のクローニングデータをもとにSAAの組替えタンパク質の発現について検討した.その結果ヒト歯肉上皮細胞をSAAで刺激72時間後まで認められなかったAIDタンパク質は,2週間から4週間持続的に刺激することで発現誘導が認められた.すなわち,歯肉上皮細胞に対するAID遺伝子発現はコントロールの2倍程度で,短期のSAA刺激ではタンパク質の発現は非常に弱いと考えられる.しかし,長期にわたる刺激ではAIDタンパク質の発現が誘導されることが明らかとなった.さらに,S. anginosus菌由来生理活性物質SAAの組替えタンパク質の発現については, pGEXベクターGST融合蛋白質あるいはHisタグタンパク質の両タンパク質の発現系を用いて検討した.その結果,pGEXベクターにSAA遺伝子を組み込みGSTおよびHisタグリコンビナントSAA(rSAA)を発現することができた.この際,ホストにclean coliを用いることにより発現タンパク質サンプル中に大腸菌由来LPSの持ち込みを排除した.次にこの精製rSAAを用いて,これまで行って来たネイティブSAA(nSAA)によるマクロファージ刺激による一酸化窒素(NO)産生ならびにiNOS遺伝子誘導について検討した.nSAA同様rSAAでもマウス腹腔マクロファージおよびマクロファージ様細胞株J774に対してNO誘導活性が認められた.以上の成績より, S. anginosusはその生理活性物質SAAによりAID異所性発現誘導による上皮細胞への変異誘導およびNO産生などの炎症応答を惹起し,S. anginosus の口腔癌発症機序に深く関与していることが示唆された.
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