細胞内シグナル誘導性のアクアポリン(AQP)5短鎖ユビキチン(Ub)化およびリン酸化の、翻訳後修飾の役割と修飾間の相互作用を調べ、唾液分泌をはじめとする生命現象における意義を明らかにすることを目的に本研究を実施してきた。 平成27年度は、ヒト唾液腺HSG細胞を用いて、優先的にAQP5短鎖Ub化の役割について解析した。これまでに見出していた細胞内Ca2+シグナル誘導性のAQP5エンドサイトーシスは、Ub化非依存性である事が示唆されたことから、エンドサイトーシス後のAQP5動態において短鎖Ub化との関連性を解析した。エンドサイトーシス後のAQP5の多くはライソソームやプロテアソームによる分解経路ではなく、むしろ細胞膜へのリサイクリング経路を辿り、一部はUb化依存的と思われる多胞体等への取り込みを経てエキソソーム分泌経路を辿る可能性を示した。 研究期間にAQP5翻訳後修飾のそれぞれの役割を確定することや生体における意義を明らかにするには至っていない。一方で、修飾間の相互作用の関係性を見出すことができた。AQP5のリン酸化と短鎖Ub化は必ずしも拮抗したり互いに誘導したりせずに、上流の複数の細胞内シグナルを介してうまく互いの翻訳後修飾が調節されていることが示唆された。 研究期間を通じて、目標達成のための複数の解析改善策を導入した事などで、副次的ではあるが有益な知見が得られた。例えば、強制Ub化実験で、AQP5短鎖Ub化を増強する2種のHECT型ユビキチンリガーゼを同定した。また、AQP5結合タンパク質のショットガン解析による探索で、細胞骨格タンパク質とその調節タンパク質、脱リン酸化酵素などの結合タンパク質候補を得た。加えて、AQP5翻訳後修飾の浸透圧変化に即時的な細胞容積調節への関与も見出しており、細胞レベルの外部環境応答におけるAQP5翻訳後修飾の重要性が示された。
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