研究課題/領域番号 |
25462901
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
吉垣 純子 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (40256904)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 唾液腺 / 分泌顆粒 / 選別輸送 / 調節性分泌 / 構成性分泌 |
研究実績の概要 |
唾液腺における分泌タンパク質の選別輸送システムを解析するために,細胞内を小胞で輸送されると予想されるタンパク質と,レポータータンパク質であるHaloTagとの融合遺伝子を作成した。分泌顆粒への輸送には,分泌タンパク質自身の複合体形成能,または複合体形成能を持つ他の分泌タンパク質との相互作用が重要であると考えられている。したがって,耳下腺における分泌顆粒への輸送効率に影響を与える因子の1つとして考えられるのは,主要な唾液タンパク質であるアミラーゼとの相互作用である。我々はこれまでの研究で,アミラーゼのシグナル配列のみとHaloTagの融合タンパク質であるssHaloが,単独での複合体形成もアミラーゼとの相互作用もなく,分泌顆粒へ輸送されることを示した。しかし,一部のタンパク質が非刺激的に分泌されたことから,構成性分泌経路へも輸送されていることが予想された。そこで,耳下腺で発現している他の標的タンパク質の全長配列とHaloTagとの融合遺伝子を作成して耳下腺腺房細胞に発現させ,分泌顆粒への輸送効率を解析した。発現タンパク質は,いずれも分泌顆粒マーカーであるアミラーゼの局在と重なった。しかし,共局在の効率は用いた標的タンパク質によって差がみられることから,そのアミノ酸配列中に何らかのシグナルが含まれていることが予想された。βアドレナリン刺激・非刺激時の分泌効率も測定したが,アミラーゼとの共局在率の高いタンパク質は,非刺激時の分泌がアミラーゼ同様に抑制されており,調節性分泌へssHaloより特異的に輸送されたと考えられる。分泌顆粒への輸送効率の高いタンパク質について,分泌顆粒における存在状態を調べたところ,単独では複合体形成能はみられないものの,アミラーゼと相互作用している可能性が示され,高分子複合体の形成が分泌顆粒への輸送に重要な役割を果たしていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調節性分泌と構成性分泌という2つの輸送経路への選別シグナルを同定するという目標に対して,これまでに調節性分泌への輸送が促進されるタンパク質を同定した。また,選別輸送を促進する因子の1つとして,アミラーゼと相互作用している可能性が見いだされた。以前の研究で,アミラーゼは複合体を形成していることを報告しており,そのアミラーゼと相互作用することによって,高分子複合体に参加していると考えられる。したがって,高分子複合体の形成が,分泌顆粒への輸送に大きな役割を果たしていることが示唆された。一方,構成性分泌への輸送シグナルを見いだすために,構成性分泌に輸送される候補タンパク質であるエリスロポエチンとHaloTagの融合遺伝子(EpoH)を作成し,耳下腺腺房細胞に発現させたが,これもアミラーゼと局在が重なっており,分泌顆粒へ輸送されていることがわかった。我々は分泌顆粒を持たない培養細胞にssHaloを発現させたときの分泌効率を計測しており,構成性分泌のみが存在する場合には非刺激時の分泌割合が高いことを見いだしている。耳下腺腺房細胞に発現させたEpoHのβアドレナリン刺激・非刺激時における分泌効率を測定したところ,ssHaloと同程度の分泌効率が確認できた。したがって,EpoHは構成性分泌経路へ積極的に輸送されてはいないと考えられる。エリスロポエチンは,マウス顎下腺に強制発現させると血液中に分泌されると報告されており,そのアミノ酸配列中に構成性分泌経路へ輸送されるシグナルが存在していると予想していたが,本実験から,構成性分泌への輸送シグナルには,さらに複雑なメカニズムが存在することが予想された。構成性分泌への輸送シグナルの解析については,細胞外基質など,上皮細胞において構成的に基底膜側に分泌されることが明らかなタンパク質を新たな標的タンパク質として,解析を続ける予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から,分泌顆粒へ輸送され,刺激依存的に分泌されるタンパク質であっても,アミラーゼとの共局在の仕方はタンパク質の種類によって異なることがわかってきた。たとえば,赤色蛍光タンパク質であるdsRedは分泌顆粒へ輸送された際に,顆粒の中で単独で凝集体を形成し,アミラーゼとは混在しないことがわかっている。一方,ssHaloは顆粒中でアミラーゼと混在しているが,それぞれの顆粒毎にssHaloとアミラーゼの含有量が異なっている。このように,輸送されるタンパク質のタンパク質化学的な性質によって顆粒への積み込まれ方が異なると考えられる。平成26年度までに輸送先が異なると考えられる複数のタンパク質とHaloTagとの融合タンパク質の発現系を作成し,耳下腺腺房細胞における細胞内局在を観察している。今後,タンパク質の局在様式と生化学的な存在様式の関連を解析する。 1. 局在の解析法として,(1) HaloTagリガンドを含む顆粒のうちアミラーゼを含む割合,(2) 顆粒ごとの2つのシグナル強度の分布,(3) イメージ中のピクセルごとの2つのシグナルのオーバーラップ係数と相関係数,の3つの方法で共局在の仕方を判定する。 2. タンパク質化学的な解析として,凝集能やアミラーゼとの相互作用,脂質二重膜との結合能を解析する。そのために,(1) 分泌顆粒を単離して内容物のNative PAGE,(2) 細胞内におけるタンパク質同士のクロスリンク解析,(3) リン脂質との結合アフィニティの測定を行う。 3. 標的タンパク質の表面電荷に影響を与えると予想されるアミノ酸に変異を導入し,局在およびタンパク質化学的な性質に対する変異の影響を解析する。 の対応を検討する。これにより,ゴルジ装置や未成熟分泌顆粒における輸送タンパク質の選別メカニズムの一つが明らかになると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
唾液タンパク質に対する新規抗体が必要となり発注したが,国内在庫が無くなり年度内の納品が間に合わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に当該抗体を購入する予定。
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