研究課題
Wnt シグナルは多様な生命現象に関与し、その破綻は様々な病態をもたらす。Wnt受容体として7回膜貫通型Frizzledが10種類、1回膜貫通型LRP5, LRP6, Ror1, Ror2およびRykが存在する。Wntは、受容体を使い分けて複雑な生物学的プロセスを精緻に制御し、Rykはその一翼を担う。Wntシグナル伝達様式は古典経路と非古典経路に分類される。古典経路のは骨形成を促進し、非古典経路のWnt5a-Ror2シグナルは、研究協力者の小林らにより、破骨細胞分化を促進することが見出された(Nat Med 18:405, 2012)。一方、Rykシグナルは古典経路と非古典経路の双方に関与し、Rykは異端Wnt受容体と呼ばれる。異端のWntシグナルRykの骨代謝における役割は不明である。Ryk欠損(Ryk KO)マウスは生後1日で死亡するため、Ryk KOマウスを用いた骨代謝機能の解析は不可能であり、申請者が作製したRyk cKOマウスを用いてのみ可能である。これまでにRykは、神経ガイダンスを調節することが示されている(Nature 439:31, 2006)。Rykの生理作用における分子メカニズムは、神経と骨では異なり、状況に応じて多様である可能性がある。本研究は、骨代謝におけるRykの生理作用と分子メカニズムの解明を、国内外において唯一Ryk cKOを用いて行うものである。平成25年度は、実施計画どおり破骨細胞系列特異的Ryk cKOマウスの作製と解析を完了した。全身的なRyk KOマウスは、生後一日で死亡するが、このマウスにおいては破骨細胞数が減少した。しかし、破骨細胞系列特異的Ryk cKOマウスにおいては、特に骨代謝異常は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記した研究実施計画すべての実験を終了し、破骨細胞におけるRykの役割を明確に示すことが出来たため。
申請書どおりに骨芽細胞特異的Ryk cKOマウスの解析 を行う予定である。全身的なRyk KOマウスにおける骨形成の低下は、Rykの骨芽細胞系列への直接作用によるのか明らかにする。そのために、Cre-loxPシステムにより、骨芽細胞(Ob)特異的なOsterix発現制御下でRyk遺伝子を欠損させ、Ob-Ryk cKOマウスを作製し、解析を行う。まず、このOb-Ryk cKOマウスにおいて骨芽細胞特異的にRyk発現が抑制されているか、免疫染色により確認する。次に、骨組織形態計測、マイクロCTによる骨密度測定を行う。さらに、Ob-Ryk cKOマウスの骨由来RNAを用いたマイクロアレイ解析を行い、Ryk下流のシグナルカスケードを同定する。さらに、リガンド依存的な(i)Rykのリン酸化、および(ii)Ryk相互作用因子の解析を行う。具体的には、(i)Hisタグ付きRykを骨芽細胞または骨髄細胞に過剰発現させ、Wnt3aまたはWnt5aで刺激する。Cell lysateを用い抗His抗体にてRykタンパクを免疫沈降後、抗リン酸化Ser抗体、抗リン酸化Thr抗体もしくは抗リン酸化Tyr抗体を用いウエスタンブロットを行い、Rykがリン酸化されるか検討する。Rykのリン酸化が認められた場合、様々なRykの欠失変異体を作製し、Rykのリン酸化部位を同定する。(ii) (i)で同定したリン酸化部位の前後のアミノ酸配列についてdata base上でモチーフ検索を行う。その結果を基に、Rykの相互作用因子の候補を絞る。これらの候補因子の抗体を購入し、免疫沈降法により実際に候補因子がRykと相互作用するか、検討する。
複数の抗体および試薬が、定価より安い金額で購入できたためである。平成26年度においては、実験が当初の計画通り進んでいるので、平成26年度研究費として計上した額を使用する。しかし、平成25年度の研究実施によりマイクロ解剖道具が破損したため、急遽、新たにマイクロ解剖道具の購入が必要となった。その購入費用にあてる。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Sci Rep
巻: 4 ページ: 137-146
10.1038/srep04493.
Immunology
巻: 140 ページ: 344-351
doi: 10.1111/imm.12146.
J Bone Miner Metab
巻: 31 ページ: 486-495
doi: 10.1007/s00774-013-0476-3.
Endocrinology
巻: 154 ページ: 1008-1020
doi: 10.1210/en.2012-1542.