ビオチンは細胞内カルボキシラーゼの補酵素として機能し、糖新生やアミノ酸代謝、脂肪酸代謝に関与している。このため、ビオチン欠乏に伴い種々の代謝異常が誘導される。近年、代謝産物の網羅的解析(メタボローム解析)が代謝異常を研究する上で非常に有用な手法として注目されているが、ビオチン欠乏に伴うメタボローム解析の報告は無い。そこで本年度は、ビオチン充足(BS)およびビオチン欠乏(BD)マウスより採取した肝臓についてメタボローム解析を行った。その結果、BDマウスではBSマウスに比較して肝臓中の必須アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン、バリンおよびスレオニン)含有量が有意に低下していることが明らかとなった。さらに、準必須アミノ酸であり、メチオニン異化によって生合成されるシステインの肝臓中含有量もBDマウスで有意に低下していた。 システインは主要な抗酸化物質であるグルタチオンを構成するアミノ酸である。BDマウスではBSマウスに比較して、肝臓中グルタチオン含有量が有意に低下していた。さらに、ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2細胞をビオチン欠乏条件下で培養すると、過酸化水素による酸化ストレス(細胞傷害性)に対する感受性が有意に増強された。 以上の結果から、ビオチン欠乏によりアミノ酸代謝異常が誘導され、グルタチオン含有量の低下と酸化ストレスに対する感受性の増強が誘導されることが明らかとなった。
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