がん細胞では、上皮成長因子受容体(EGFR)-1への刺激は、RAS経路を介してがん細胞の増殖や浸潤・転移など、生体に不利な現象を生じる。EGFRリン酸化阻害薬やEGFR-1抗体薬は、EGFR-1の機能を阻害し、がん細胞の増殖などを抑制する。 EGFR-1遺伝子のcodon 746-753に変異が生じている場合、EGFリン酸化阻害薬の奏功率が高まる。またKRAS遺伝子のcodon 12-13の変異は大腸癌の予後不良因子で、EGFR-1抗体薬を投与する基準となっている。 本研究では、EGFR-1遺伝子やKRAS遺伝子の変異検出システムを構築・ブラッシュアップし、口腔細胞診検体を用いてこれら遺伝子変異の検出を試みた。 細胞診検体から核酸を抽出し試料とした。蛍光によるloop mediated isothermal amplification(LAMP)法の検出システムをチェックするために、EGFR-1遺伝子の突然変異ホットスポットに対してプライマーを試作し、最終的に基本プライマー4種に加えループプライマー1種を設計した。同部位に遺伝子変異が生じている培養細胞から得られたDNAを元にLAMP反応溶液を調整し、等温増幅蛍光測定装置によりLAMP増幅反応の検出を行ったところ、約20分で遺伝子変異の検出が可能であった。従来から用いている等温増幅濁度測定装置では検出までに約40分を要しており、本システムによる遺伝子変異の検出が感度に優れていると考えられた。 口腔細胞診検体を用いたEGFR-1遺伝子とKRAS遺伝子の変異検出を試みたが、明らかな変異は検出できなかった。細胞診検体を模倣するように、培養細胞の数や条件を調整して同様に実験したところ、はるかに少量の細胞(10-100個)から上記遺伝子変異が検出された。以上から、口腔細胞診検体にはこれらの遺伝子の変異陽性症例が少ないか、あるいは角化細胞からの検出が困難と推測された。
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