研究課題/領域番号 |
25462940
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
後藤 満雄 愛知学院大学, 歯学部, 助教 (60645191)
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研究分担者 |
中西 速夫 愛知県がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (20207830)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 口腔扁平上皮がん / 低分化がん / EMT/CSC / シグナル伝達 / PI3K/Akt経路 / Wnt/beta-catenin経路 / 分子標的薬 |
研究概要 |
1:口腔扁平上皮がん(OSCC)株からがん幹細胞(CSC)形質を示す亜株を分離し細胞パネルを作成 CSC様細胞形質を有するUMSCC81B株からverapamil処理の有無によりSP(side population)画分とNon-SP画分をFACS sortingにより分離し、CSCマーカー発現を定量RT-PCR法で検討した。SP画分からUMSCC81B-SP亜株を樹立することに成功し、SP画分はOct4, ALDH, NanogなどのCSCマーカーが高発現していた。また低分化型扁平上皮がん株であるHSC-3細胞の特性を解析した結果、Vimentin, Snail, Oct4などのCSCマーカーが高発現しており、上皮間葉移行(EMT)/がん幹細胞(CSC)モデルとして有用である可能性を明らかにした。EMT形質を示すHSC-3細胞はEGFR高発現であり、EGFR標的薬であるGefitinib, Cetuximab感受性をin vitroで検討した結果、HSC-3細胞の増殖はEGFR標的薬に有意に抑制され、これはアポトーシス誘導よりも主として細胞周期停止による可能性が示唆された。 2:CSC/EMTシグナル経路の解析 EMT形質を有するUMSCC81B細胞やHSC-3細胞はEGFRが高発現しており、下流のMAPK経路とPI3K/Akt/GSK-3beta経路はリガンド刺激なしでも恒常的に活性化されていた。一方、Wnt/beta-catenin経路はUMSCC81B細胞ではbeta-cateninの局在が主として細胞膜であったのに対し、HSC-3細胞では細胞質と核に主として局在しており両細胞で違いが見られた。またOSCCの外科切除材料を用いてbeta-cateninの発現を免疫組織学的に検討したところ、角化型OSCCにおけるbeta-cateninの発現はほぼ例外なく細胞膜であり、細胞質や核での発現は殆ど認められなかった。このことから、大部分のOSCCではbeta-cateninは転写制御よりも細胞接着に関与しているが、一部の低分化型OSCC細胞株ではbeta-cateninが核に蓄積することから、Wnt/beta-catenin経路が細胞増殖や浸潤転移に関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
UMSCC81B細胞株からSP fraction を分離し、FACS cell sortingによりその安定培養株(UMSCC81B-SP細胞)の作成に成功した。またマーカー発現検索から本細胞株がCSC様形質発現をすることをin vitroで明らかにした。また新たに低分化型扁平上皮がん株であるHSC-3細胞がUMSCC81B株と同様にEMT/CSCモデルとして有用である可能性を明らかにし、これらの細胞がEGFR高発現であり、EGFR標的薬であるGefitinib, Cetuximabに対し感受性を有することを明らかにした。また臨床材料におけるWnt/beta-catenin経路活性化について予備的に検討した。以上よりモデルの作成、その特性解析、分子標的薬感受性など基礎的な解析のみならず、予備的な臨床研究を行い、本研究の基盤整備をほぼ修了した。本年度の目標を着実に達成しており、総合的に達成度は70-80%と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
臨床材料の研究からOSCCではWnt/beta-cateninシグナルの活性化は稀であること、しかし手持ちのOSCC細胞株ではHSC-2, HSC-3細胞などではbeta-cateninが核と細胞質に局在することが判明したことから、今後はEMT/CSC形質を示すHSC-3細胞株などを用いてWnt/beta-cateninシグナルとEGFR/Akt/GSK-3betaシグナル等の解析を進めてゆく。また臨床材料、なかでも低分化型OSCC症例を収集し、免疫組織学的にbeta-cateninの局在について研究し、低分化型OSCC症例におけるWnt/beta-cateninシグナル活性化の有無を明らかにし、その臨床的意義などを検討してゆく予定である。一方、EMT/CSC形質を示すOSCC細胞株のEGFRなどに対する分子標的薬感受性および抵抗性を詳細に検討し、Wnt/beta-cateninシグナルとEGFR/Akt/GSK-3betaシグナル単独あるいは両者の相互作用の解析から感受性、抵抗性の分子機序を明らかにしてゆく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度の研究にあたっては、研究施設に既存している設備を使用した実験を主に行ったために未使用額が発生した。また、消耗品に関しては、予備実験の必要回数が予想より少なかったこと、今までのストックも使用して実験を行ったことも挙げられる。学会での研究成果発表、ならびに論文での発表がまだ行われていないこと、海外での研究カンファレンスを当該年度は見送ったことも理由に挙げられる。 当該年度に達成できなかった研究、ならびに次年度に計画されている研究を、適正に研究費を使用しながら研究計画書に準じて進めて行く。次年度は消耗品の購入が増えることが予想されるために、当該年度の未使用額を有効に利用して行く。また、海外での研究成果の発表も予定している。
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