研究課題/領域番号 |
25462940
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
後藤 満雄 愛知学院大学, 歯学部, 講師 (60645191)
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研究分担者 |
中西 速夫 愛知県がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (20207830)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 口腔扁平上皮がん / 低分化がん / EMT/CSC / podoplanin / TGF-β / PI3K/Akt経路 / 分子標的薬 |
研究実績の概要 |
口腔扁平上皮がん(OSCC)株からのがん幹細胞(CSC)形質および上皮間葉移行(EMT)形質を示す亜株等を用いたPodoplaninの機能解析 元々血小板凝集との関わりから血行性転移促進因子として発見されたPodoplaninはOSCCでは70-80%と高頻度で発現し、リンパ節転移との関連も報告されている。本年度はこのPodoplaninとがん幹細胞(CSC)形質およびEMT形質との関係について、CSC様細胞形質を有するUMSCC81B株からFACS sortingにより分離したUMSCC81B-SP(side population)細胞株およびUMSCC81B株からGefitinib処理により線維芽細胞様の形態を示し、E-cadherin発現低下およびVimentin高発現などEMT形質をしめす細胞株(UMSCC81B-Fb) を用いて解析を行った。UMSCC81B-SP細胞株はPodoplanin およびOct4, ALDH, NanogなどのCSCマーカーを高発現していたのに対し、UMSCC81B-Fb細胞株はPodoplanin およびCSCマーカーの発現はいずれも低かった。またUMSCC81B-SP細胞株はHDAC阻害剤処理(あるいはsiRNAによるPodoplaninノックダウン)により上皮分化誘導とPodoplaninおよびCSCマーカーの発現低下が見られたのに対し、元々Podoplanin発現の低い UMSCC81B-Fb細胞株ではHDAC阻害剤処理による明らかな上皮分化誘導とPodoplaninの発現低下は認められなかった。以上のことから、UMSCC81B-SP細胞株ではPodoplanin がCSC 形質の維持に重要な役割を果たしているのに対し、UMSCC81B-Fb細胞株のEMT形質はPodoplanin非依存的であることを明らかにした。 またUMSCC81B-SP細胞株のPodoplaninがTGF-βによって発現誘導されるのに対し、UMSCC81B-Fb細胞株ではTGF-β/Smad2経路の関与は弱く、代わりにPI3K/Akt/GSK-3β/snail経路が恒常的に活性化されており、UMSCC81B-Fb細胞株のEMT形質はTGF-β非依存的であることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の口腔扁平上皮癌の切除材料を用いた免疫組織学的研究により当初考えていたOSCC におけるWnt/β-catenin経路の活性化は一部の培養OSCC細胞に限られ、臨床組織切片では殆ど全く発現(活性化)が見られないことが判明したため、2年目以降はOSCCのがん幹細胞形質とEMT形質においてより重要性(普遍性)が高いと考えられたPodoplaninに絞って研究を行った。 方法としては口腔扁平上皮がん(OSCC)株からのがん幹細胞(CSC)形質およびEMT形質を示す亜株を独自に分離し、これらを用いてこれまでCSC 形質のひとつとされていたがその機能が不明であったPodoplaninの機能解析を行った。その結果、UMSCC81B-SP細胞株ではPodoplanin がCSC 形質の維持に重要な役割を果たしているのに対し、UMSCC81B-Fb細胞株のEMT形質はPodoplaninに非依存的であること, またUMSCC81B-SP細胞株のPodoplaninがTGF-βによって発現誘導されるのに対し、UMSCC81B-Fb細胞株ではPI3K/Akt/GSK-3β/snail経路が恒常的に活性化されており、UMSCC81B-Fb細胞株のEMT形質はTGF-β非依存的で有ることを明らかにした。 以上、CSC/EMTモデルの作成とその特性解析と通じた基礎的検討によりPodoplaninがOSCCに対する新たな治療標的分子となりうる可能性を見いだした。予備的検討ながら抗ヒトPodoplanin抗体とOSCCのヌードマウス移植モデルを用いてがん幹細胞を標的とする新しい治療法についても検討し、一定の抗腫瘍効果を見いだしている。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究に使用したEMT細胞株、UMSCC81B-Fb細胞はUMSCC81B細胞の Gefitinib耐性細胞の一部から紡錘型という形態に注目して分離した細胞株であり、やや特殊な選別方法を用いている。今回の結果はPodoplaninがEMTには積極的に関与しないことを示唆する結果であったが、今後、頭頸部がん領域で標準的に使われる化学療法剤等など他の選別方法を用いて複数のEMT細胞株を作成して、PodoplaninとEMTの関連についてさらに詳しく検討していきたい。 また当初の研究目的の一つであった薬剤耐性との関連については今回、殆ど解析できなかったが、UMSCC81BおよびUMSCC81B株では薬剤耐性因子として知られるABC トランスポーターを高発現していることは確認しており、今後、上記細胞株をプラットフォームにして各種薬剤耐性株を作製し、薬剤耐性におけるPodoplaninの役割についても研究してゆく予定である。 さらに上記予備的検討で、抗Podoplanin抗体を用いたOSCCのがん幹細胞を標的とする治療法についても一定の抗腫瘍効果を示唆する結果が得られており、今後他施設との共同研究を行いながら、抗ヒト抗体の供給を受け、OSCC に対する新しいPodoplanin抗体療法についても本格的に検討してゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な実験において、研究施設に既存する設備を使用したため、設備備品費の未使用額が生じた。消耗品費に関しても、当初の予想より少なかった。また、研究目的の一つであった薬剤耐性との関連について、解析が進んでいないことも次年度使用額が生じた理由に挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究の推進方策に基づき、達成すべき研究に対して適正に研究費の使用を行う。具体的には前述のごとく、薬剤耐性実験やPodoplanin抗体療法の検討に使用する消耗品が挙げられる。それに伴い、未使用額を有効に利用して行く。また、研究成果の発表と論文作成も予定したい。
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