研究実績の概要 |
11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 1(11β-HSD1)は不活性型のグルココルチコイドを活性型に変換する酵素であり、細胞内でのグルココルチコイド活性化に関与する。脂肪組織における11β-HSD1の高発現による細胞内コルチゾルの増加が、メタボリックシンドローム発症に関与することが示唆されている。また、メタボリックシンドロームは脂肪組織の慢性炎症状態と考えられているが、他の組織の慢性炎症(関節リウマチ、潰瘍性大腸炎など)においても11β-HSD1の関与が報告されており、歯周組織の慢性炎症である歯周病においても11β-HSD1の発現が亢進し歯周病発症の原因の一つとなっている可能性が考えられる。歯周病とメタボリックシンドロームとの関連については以前より報告されていたが、歯周病における11β-HSD1の関与については今まで報告されていなかった。そこで我々は、歯周病における新たな治療ターゲットとしての11β-HSD1の役割を解明するために研究を開始した(平成22~24年度科学研究費基盤研究(C);平成25~27年度科学研究費基盤研究(C))。その結果、歯周病患者の歯肉組織においては健常者に比べて11β-HSD1の発現が有意に亢進していることを見出した(Journal of Osaka Dental University 47, 7-10, 2013;SpringerPlus 5, 40, 2016)。今年度は、ラットの臼歯に絹糸を結紮することにより実験的歯周病モデルを作製して歯肉組織における11β-HSD1発現を検討したところ、ラットの歯周病モデルにおいても11β-HSD1発現が有意に亢進していた(平成27年日本歯科保存学会にて発表)。これらの結果から、歯周病発症における11β-HSD1の関与が示唆された。
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