研究課題/領域番号 |
25462951
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
平石 典子 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20567747)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 象牙質 / 接着性モノマー / コラーゲン / 核磁気共鳴装置 / 疎水性結合 / レジン |
研究概要 |
象牙質がミネラルと有機質のtype Iコラーゲンから構成されているにも拘らず、これまで歯質象牙質に対する接着システムの解明は、接着モノマーとカルシウムの相互作用のみ報告されており、コラーゲンとの結合は全く行われていなかった。また核磁気共鳴を応用した分子レベル分析は、モノマーの加水分解、またはミネラルとの相互作用が報告されているが、象牙質有機質であるコラーゲンと接着性モノマーとの相互作用、その複合体の形成は報告がなく、接着機能の解明において興味深い分析である。本研究では飽和移動差核共鳴測定法,Saturation Transfer Difference Nuclear Magnetic Resonance, (STD NMR)にて、高分子(protein: コラーゲン) と 低分子(ligand: 接着性モノマー)の相互作用、結合複合体(binding component) の確認、解析をおこなった。接着性モノマーとして、親水性の異なるMDP: 10-methacryloyloxydecyl dihydrogenphosphateと4-META: 4-methacryloyloxyethyl trimellitate anhydrideを使い、コラーゲンと接着性モノマーの相互作用を評価し、さらにコラーゲンに対する接着性モノマーの相互作用部位(エピトープ)を解析した。その後、コラーゲンと接着性モノマーの相互作用について、更に親水性の高いHEMA: 2-hydroxyethyl methacrylateが共存した場合の影響を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初期報告として発表した、リン酸エステル系の代表としてMDP, カルボン酸系の代表として4-METAの相互作用の結果は、より疎水性の大きいMDPがコラーゲンとの相互作用が大きいとの報告であった(J Dent Res. 2013;92:284-8. doi:10.1177/0022034512474310.に発表済み)。今回はこの実験の追加報告として、より親水性の強いHEMA:2-hydroxyethyl methacrylateの共存下での、相互作用の影響を、MDPとHEMAのco-monomerをligandサンプルとして使用してSTD-MNR評価した。MDP単独では相互作用が見られたが、HEMAとブレントされるとその作用は消滅されていた。これは、HEMA分子がMDP分子を取り囲むように配列し、MDPの疎水性の脂肪族部分をマスキングしてしまい、コラーゲン分子との疎水性結合を阻止してしまうためと考えられた。これにより、これまでのHEMAがモノマーの浸透性、つまり接着界面でのより確実なモノマーの接着機能に有意に働いていたとの概念は、本実験の実験系では否定された。これら研究結果は2013年接着歯学学会(Philadelphia, USA) で発表し、優秀発表賞第3位を受賞した。国際論文ではRole of 2-hydroxyethyl methacrylate in the interaction of dental monomers with collagen studied by saturation transfer difference NMR.のタイトルで、J Dent. 2014 Apr;42(4):484-9. doi: 10.1016/j.jdent.2013.12.016.に発表している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度同様STD-NMR測定を行い、HEMA単独ではSTD効果かないこと、また実際にヒト象牙質コラーゲンから抽出したコラーゲンを使い、UV-Vis spectrophotometerにてHEMA分子の濃度変化測定を分析し、HEMAはその高い親水性の為に、コラーゲンと結合しないことも解析する。また、アテロコラーゲンに対する結合作用をSTD-NMR法で分析した結果を、2012年度にJournal of Dental Researchに発表した際に、アテロコラーゲン水溶液の条件(pH度、溶媒の種類など)によって得られた相互作用に影響が出るかが今後興味深い報告になるとの意見を得たため、準備中である。具体的にはSTDスペクトルが確認されたモノマーを、アセトン(極性非プロトン性溶媒)、エタノール(極性プロトン性溶媒)にて配合し、リガンド試料とする。溶媒により、Aterocollagenの高次構造が変性しない場合は、前述のSTD NMR測定を行う。高次構造が変性しランダムコイル状を有する場合は、コラーゲンの疎水性状が親水性になる傾向があると予測される。よって、コラーゲン周囲の水集合体の形態変化とともに、コラーゲン自身の疎水性状から親水性への変化も考慮し、STD NMR結果と考察する。必要なら前述のUV-Vis spectrophotometerによるコラーゲン粉末とモノマーの吸着測定を、アセトン、及びエタノール溶媒下で行う。 また、モノマーの疎水性とコラーゲンとの相互作用の関連性を再評価するために、MDPの脂肪族の炭素が2つ増えた試験的リン酸エステル系接着性モノマーを使い評価していきたい。また前年度ではできなかったが、歯科接着性レジンの主要有機成分のメタクリレートで、一般に使われている、Bis-GMA とTEGDMA: Triethylene glycol dimethacrylateについても検討する予定である。Bis-GMA とTEGDMAは、特に前者は難水溶性であるので、溶媒を工夫して行っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
STD NMR測定は、これまでの基礎実験から、理化学研究所横浜生命分子システム基盤研究領域、栃尾直哉先生のご協力頂いていましたが、2013年度中に広島大学理学部に御移動になり、理化学研究所での測定の際の後任の先生がなかなか見つからなかった。そのため追加実験を同じ、又は過去の実験に準じた方法で行うことは困難であり、予定が大幅に遅れた次第である。2014年1月になってようやく後任の協力頂ける先生と確認が取れ、実験方法、条件)、特にアテロコラーゲンを含むNMR試料の調整を議論すべく、日程の調整を行っている段階である。 理化学研究所横浜生命分子システム基盤研究領域での、受託STD-NMR測定を、新しいNMR部門の専門の先生に協力を頂き実施予定である。よって、測定受託費用が中心になってくると思われる。新しい測定条件(pHや,溶媒の違い)から、再度予備実験の必要性が出ると思われるため、使用量が増えると思われる。 また、モノマーの疎水性とコラーゲンとの相互作用の関連性を再評価するために、MDPの脂肪族の炭素が2つ増えた試験的リン酸エステル系接着性モノマーを購入、歯科接着性レジンの主要有機成分のメタクリレートの、Bis-GMA とTEGDMA購入費などに使用予定である。同様に、学会での成果発表関連の旅費にも使用計画中である。
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