本研究では、糖尿病患者の歯内疾患に対する免疫反応を調べるために、3つの因子に着目し実験を計画した。1.糖化最終産物(AGE)2.S100タンパク質(S100)3.AGEの受容体(RAGE)in vitroの系では、歯髄細胞や根尖周囲由来の細胞でのRAGEとS100タンパク質(S100)の発現、および、3つの因子の炎症増悪に対する役割を解析する。また、in vivoの系において糖尿病モデルラットを用いて歯髄炎と根尖性歯周炎の経時的な進行速度と組織破壊を解析し、糖尿病罹患時における歯内疾患悪化メカニズムを明らかにすることとした。実施したin vivoの実験では糖尿病誘導マウスの8週後(13週齢)の血糖値は450±54 mg/dl、体重は43±2.8gであり、健常マウス(普通食投与群)は血糖値が212±17mg/dl、体重は31±1.4gであった。根尖周囲への炎症波及範囲は露髄後3日後から明らかな差が生じていた。RAGEの関与を証明するためにリコンビナントRAGE(rRAGE)を露髄後すぐに根管内に投与群と非投与群を作成し比較した。rRAGE投与群は非投与群と比較して炎症の波及が緩やかである傾向が出た。in vitroの実験では、まず、好中球におけるRAGEの発現を確認した結果、糖尿病患者から採取した好中球の発現が増加していた。また、S100タンパク質を作用させた健常者の好中球の産生する活性酸素量が糖尿病患者から採取した好中球が産生する活性酸素量が同レベルまで増加する結果を得た。歯髄由来繊維芽細胞のRAGEの発現は糖尿病モデルマウスと健常マウスで差はなかった。このことから、in vivoで得た糖尿病マウスの歯髄疾患の進行が早い傾向にあるという結果は、歯髄由来細胞よりも好中球などの血液由来の炎症細胞が関係している可能性が示唆された。
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