研究課題/領域番号 |
25462969
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
西山 典宏 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (90112953)
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研究分担者 |
藤田 光 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (00147737)
内田 僚一郎 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (10623960)
會田 雅啓 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (40147715)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ワンステップボンディング材 / 酸性モノマーのカルシウム塩 / MDP / NMR / XRD |
研究概要 |
申請者はこれまでMDPを酸性モノマーとして添加したワンステップセルフエッチボンディング材を開発し,これをウシ歯冠エナメル質および象牙質粉末に作用させ,ボンディング材へのMDPの添加量(MDPの添加量:0,25.6,49.9,80.5,116.1 mg/g)がMDPのカルシウム(MDP-Ca)塩の生成量に及ぼす影響を検討するとともに,MDP-Ca塩の生成量が接着強さに及ぼす影響を検討してきた。 本研究では,接着耐久性の優れたボンディング歯質接着システムを構築するためボンディング材を歯質に作用させたときに生成されるMDP-Ca塩が接着耐久性に及ぼす影響を検討した。 その結果、ボンディング材のエナメル質接着においては,サーマルサイクルを負荷しても初期の接着強さが維持され,MDP-Ca塩の生成量が増加してもほとんど接着強さの低下は認められなかった。しかし,破断エナメル質およびレジン面のSEMおよびEDX分析の結果から,サーマルサイクルを負荷するとレジンがエナメル質から界面剥離する確率がMDP-Ca塩の生成量が増大するにつれて高くなり,水の浸入による接着界面での接着劣化が確実に進行していることが判明した。 しかし,象牙質においては,ボンディング材の接着強さはサーマルサイクルを負荷すると低下し,その低下率はMDP-Ca塩の生成量の増加に伴い有意に増大した。破断象牙質およびレジン面のSEMおよびEDX分析を行った結果,サーマルサイクルを負荷すると,せん断応力を負荷した時に象牙細管内に形成されたレジンタグが引き抜かれる確率がMDP-Ca塩の生成量が増加するにつれて高くなることが明らかとなった。また,象牙細管内には脱灰された管周象牙質コラーゲン線維が露出することから,管周象牙質内に生成された脱灰コラーゲン層内部で破壊が起こっていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ワンステップボンディング材でエナメル質および象牙質を脱灰したときに生成されるMDP-Ca塩の生成量は決定されているが、脱灰過程において生成されるリン酸カルシウムの種類およびその生成量、石灰化度に関してはX線回折法および固体31P NMR法を駆使して現在検討中である。脱灰過程で生成されるリン酸カルシウムの種類およびその生成量、石灰化度が明らかになれば、象牙質接着においてMDP-Ca塩の生成量が増大するにつれて、接着強さが低下する原因が判明すると考えられる。これはMDP-Ca塩の生成量はエナメル質および象牙質の脱灰過程を通して生成されるカルシウムイオンおよびリン酸イオンの生成量と緊密に連動しているためである。 これまでに行った解析成果をまとめると、ワンステップボンディング材(MDPの添加量:116.1 mg/g)をエナメル質に作用させると作用直後にMDP-Ca塩とトリリン酸カルシウム(β-TCP)の結晶が析出し、作用時間の延長に伴い、MDP-Ca塩の生成量が増大して一定値を示すこと、一方、第二リン酸カルシウム(Brushite)結晶は作用時間30分後に析出が始まり、作用時間の延長とともにBrushite結晶の生成量が増大することが判明した。 象牙質においてもエナメル質と同様にワンステップボンディング材を作用させると、その直後にMDP-Ca塩の結晶が析出し、作用時間が長くなるとMDP-Ca塩の生成量が増大して一定値を示した。さらに24時間ボンディング材を作用させると、構造の異なるMDP-Ca塩および非晶質のリン酸カルシウムが析出することが判明した。しかし、新しく析出したMDP-Ca塩および非晶質リン酸カルシウムの種類を同定することは未だできていない。 現在、非晶質のリン酸カルシウムの種類を同定するため、固体31P NMR法で得られたNMRスペクトルを波形分離しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
MDPの添加量の異なるワンステップボンディング材(MDPの添加量:0,25.6,49.9,80.5,116.1 mg/g)をエナメル質および象牙質粉末に作用させ、得られたエナメル質および象牙質反応残渣をX線回折法、固体NMR法で解析することによって、ワンステップボンディング材へのMDPの添加量がMDP-Ca塩およびリン酸カルシウムの生成量およびその分子種におよぼす影響を検討する。 つぎに、象牙質接着耐久性が非晶質リン酸カルシウムの生成に原因すると、確認できた段階で、カルボキシル基を有するアミド系およびメタクリル系モノマーを添加したワンステップボンディング材を試作し、このボンディング材を象牙質に作用させた場合のアミド系およびメタクリル系モノマーのカルボキシ基がカルシウムイオンをトラップし,リン酸カルシウム塩の生成量を抑制する効果および歯質接着性に及ぼす影響について検討する。 <α-アミノ酸を骨格としたアミド系モノマーの合成>(担当 西山典宏,藤田 光)α-アミノ酸(グリシン,グルタミン酸)のアミノ基にメタクリロイルクロリドを縮合し,メタクリル酸のアミド系モノマーを合成する。 <化学分析>(担当 西山典宏,藤田 光)合成したアミド系モノマーを添加したワンステップボンディング材をエナメル質または象牙質粉末と相互作用させた後,得られた反応残渣を固体のNMR装置,X線回折装置を用い分析を行う。 <接着耐久性試験>(担当 會田雅啓,内田僚一郎)アミド系モノマーを添加したワンステップボンディング材を介してエナメル質または象牙質にコンポジットレジンを接着し,ボンディング材のエナメル質,象牙質に対する接着耐久性を検討する。しかし、アミド系モノマーがリン酸カルシウム塩の生成量を減少させることができない場合には,カルボキシ基を有する種々のモノマーをボンディング材に添加し,その効果を再検討する。
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