研究課題/領域番号 |
25462978
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
長谷川 誠実 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (10218456)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 歯髄刺激 / 歯痛 / 海馬 / LTP / 情動記憶 |
研究実績の概要 |
初年度に歯髄刺激による歯痛に侵害性のみならず報酬系の一面もあることを明らかにした。更に、歯痛に対する海馬応答が情動記憶に関与していることを明らかにする目的で、歯髄刺激時の海馬CA1領域のPopulation spike amplitudeとともにリズムバーストに関して検討し、歯痛が海馬に関与して情動記憶を獲得する可能性について示唆した。今後、歯髄刺激による中枢応答に関して、大脳辺縁系の他部位、扁桃核や帯状回にも同様に実験を進めて行かなければならないが、ここで、歯髄刺激時の海馬応答が本当に情動記憶として表現されているのか、あるいは情動記憶に関与しているのかについて明確なデータを示す必要を考えた。そこで本年度は、この1年間で得られたデータが記憶を示す結果であることを確定する目的で、歯髄刺激によって海馬に長期増強を生じるかについて検討した。その結果、海馬にテタヌス刺激を与えた時に生じるような海馬LTP(CA3領域刺激時のPopulation spike amplitudeの増加が90分程度持続)が歯髄刺激によっても生じる(CA3領域刺激時のPopulation spike amplitudeの増加が80分程度持続)ことが明らかとなった。また、この結果が歯痛の中枢応答であることを確定する目的で、中枢性疼痛抑制薬としてアセトアミノフェンを投与した時と末梢の抗炎症性疼痛抑制薬のイブプロフェンを投与した時の歯髄刺激時における海馬Population spike amplitudeを測定し比較した。その結果、アセトアミノフェン投与時で歯髄刺激に対する海馬Population spike amplitudeは抑制され、イブプロフェン投与時では歯髄刺激に対して海馬LTPを生じることが分かった。このことから、歯痛に対する海馬応答は情動記憶であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
全実験を通じてのデータ採取が、すべて生体対象のIn vivoであることから、安定したデータを得るために相当時間を要してしまう。初年度実験では、歯痛の報酬系的一面の確認のため多くの時間を費やし、次いでPopulation spike amplitudeやリズムバーストの測定にも繰り返し多くの実験を行った。当初、この時点でこの得られたデータが情動記憶を示しているものであると判断可能であると考えていたが、In vivoの海馬LTP計測に、疼痛の中枢抑制や末梢抑制の要因も加える必要があるとの示唆を文献より得たことから、同実験を追加した。これらにより、早期に歯髄刺激に対する海馬活動の評価を終える予定が果たせない結果に及んだ。以上より、現在研究は遅れていると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
現在、採取できた歯髄刺激による海馬LTPのデータは、学会発表に関しては十分可能なものであるが、今後論文化するにはデータ数としては不足している。まず、最終年度として初期は当該データ収集に尽力する必要がある。その後、歯髄刺激の中枢応答、情動記憶に対する大脳辺縁系の機能連携について明らかにする上で、情動のコーディネーターと考えられている帯状回を最優先で検討しなければならないと考えている。歯髄刺激および歯痛の情動記憶に関する実験方法は、この2年間の海馬における手技で確立されているので、できる限り早期に開始する。海馬と帯状回の機能連携の検討が行えれば、大脳辺縁系の機能連携の大局は把握可能であるので、今後の扁桃核を含めた検討を行う際の大きな指標となり得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
特別注文の血流センサーを用いた歯髄刺激時の表情筋のモニターを計画していたが、当初予定していた金額内を越えたため、当該モニターは次年度実験で行うことにした。そのため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
発生した次年度使用額に次年度助成金を加えて特別注文の血流センサーを購入し、歯髄刺激時の表情筋血流によるモニターを実験内容に加える。
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