研究課題
熱ショックタンパク質誘導剤を用いた安全かつ効果の高い新規の生物学的覆髄法の確立を目的とし、本年度は致死的熱刺激から細胞を保護するに十分な量の熱ショックタンパク質発現を歯髄由来細胞に誘導するのに適した条件の検索と、その際の細胞保護機構の解明について研究を行った。そして41℃、12時間の軽度熱刺激は致死的な熱刺激に対する耐性を歯髄由来細胞に誘導するに必要十分な量の各種熱ショックタンパク質を細胞質内に蓄積し、これらの分子シャペロンとしての機能による直接的な細胞保護効果に加え、熱ショックタンパク質により誘導される一過性の細胞周期の停止による間接的な細胞保護効果も同時に機能していることを明らかにした。一方、39℃の熱刺激では熱ショックタンパク質の細胞内での増加は確認されるものの41℃に比べて有意に低く、細胞周期の停止は確認されず、歯髄由来細胞の致死的な刺激に対する耐性能は向上しなかった。以上の結果より、熱ショックタンパク質による歯髄細胞の耐性向上メカニズムについて明らかにすると共に、致死的な刺激より歯髄細胞を保護するためには必要十分な量の熱ショックタンパク質群を細胞内に蓄積する必要があることが明らかになった。上記の研究と平行して、本年度は覆髄法を成功させる上で不可欠な歯髄組織の炎症応答をコントロールする上で解明すべき炎症応答時の歯髄由来細胞の挙動メカニズムを明らかにするため、in vitro研究により炎症性サイトカインであるIL-1βおよびTNF-α刺激に対する歯髄由来細胞の応答について分子生物学的手法を用いて検証した。その結果、IL-1βおよびTNF-αは象牙芽細胞様細胞の象牙質基質タンパク質の産生量を増加させ、さらにIFN-γを投与するとこれらの発現を著しく抑制することが確認された。
2: おおむね順調に進展している
熱ショックタンパク質による歯髄由来細胞への耐性能向上メカニズムについて、詳細に解析を行い国際学術雑誌上で報告することができた。また当初の計画には含めてはいなかったが、覆髄が必要となる歯の歯髄では歯髄炎が惹起されており、歯髄保存や第三象牙質形成において炎症のコントロールが覆髄法の成否に大きく関与する。そのため、in vitro研究により炎症性サイトカインやIFN-γの歯髄由来細胞への影響についても検証が必要であるため、これらについても検証をスタートすることができ、象牙質基質産生への影響について解析することができた。さらに前年度より計画よりも先行して実施しているストロンチウム置換生体活性ガラスを用いた象牙芽細胞分化誘導能を有する無機材料の開発も継続して進行中である。一方、動物実験による至適HSP70誘導剤投与量の検討は当初計画より遅れている。以上それぞれの研究を統合すると、おおむね研究は順調に伸展していると考える。
次年度は、以下についての研究を遂行する予定である。1)in vivo研究による至適HSP70誘導剤投与量および投与方法の検討:ラットを用いた動物実験により、歯髄の刺激耐性誘導に必要十分な量のHSP70誘導剤の投与量と、投与方法について確認する。投与方法については注射器による腹腔内投与と経口シリンジを用いた経口投与について確認する。また、耐性誘導効果発現までに要する時間についても検討する。各投与方法によりHSP70誘導剤を投与後に免疫化学的手法を用いて歯髄におけるHSP70発現について確認する。次に、至適量のHSP70誘導剤投与後に規格形成器を用いてラット上顎臼歯に窩洞形成を行い、歯髄の刺激耐性効果について確認する。2)積極的な歯髄の消炎および創傷治癒促進方法の検討:歯髄炎を鎮め創傷治癒を促進し象牙芽細胞の分化誘導を図るため、HSP70誘導剤と合わせて用いる各種の薬剤・材料や方法について検討する。象牙質-歯髄複合体再生誘導のためのストロンチウム置換生体活性ガラスに加え、多血小板血漿やインターフェロンなどの応用について、その可能性を探る。
すべて 2016 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (11件) 図書 (3件)
Int Endod J
巻: 49 ページ: 271-278
10.1111/iej.12443
Arch of Oral Biol
巻: 59 ページ: 741-748
10.1016/j.archoralbio.2014.03.014
Mol Endocrinol
巻: 28 ページ: 1460-1470
10.1210/me.2014-1094
日歯保存誌
巻: 57 ページ: 407-413
10.11471/shikahozon.57.407
J Endod
巻: 40 ページ: 1989-1994
10.1016/j.joen.2014.08.024