平成27年度は、歯冠色を付与したイットリア安定型ジルコニアの低温劣化に着目し、研究を行った。無着色ジルコニア試料、浸漬法およびパウダーミキシング法によって歯冠色を付与した円板状試料を作製した。各色の試料を3群に分け(n=18)、10時間および100時間のオートクレーブ処理で低温劣化を惹起した。残りの1群は無処理でコントローとした。二軸曲げ試験により曲げ強度を測定し、ワイブル統計法により解析したところ、オートクレーブによる低温劣化は強度の低下につながるが、100時間オートクレーブ処理を行っ他場合でも1000 MPa以上の曲げ強度を示すことが分かった。また、着色試料の方が低温劣化の影響を受けにくいことが分かった。これは着色剤に含まれる酸化物などが安定化剤としての役割を果たしたためと考えられる。本研究結果は、オールジルコニアクラウンは、低温劣化が口腔内で惹起された場合でも、十分な強度を有することを示唆するものである。 また、オール・ジルコアニアクラウンの除去を想定し、ダイアモンドバーのジルコニア切削効率を評価した。ジルコニアは、二ケイ酸リチウムやリューサイトガラスセラミックするよりも硬度が高く、切削にはより長い時間を要した。1 mm厚の試料をスパーコースのダイアモンドバーを用いて、0.9 Nの荷重で切削した場合、5 mm切断するのに要した時間は、ジルコニアが約300秒、二ケイ酸リチウムが約200秒、リューサイトガラスセラミックが約40秒であった。ジルコニア切断においては、切削圧を上げるとダイアモンドバーの砥粒の脱落および摩耗が生じ、切削効率が低下することが分かった。本研究結果は、ジルコニアを用いた補綴装置は、他の材料の補綴装置よりも切削が困難であることを示唆している。従って、ジルコニア補綴装置を使用する場合には、除去の困難さも十分に認識したうえで適応症例を選択する必要がある。
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