本研究目的は機能時の義歯の動きを測定するシステムを作成し、その精度検定と臨床実験を行うことである。このシステムは慣性測量装置(IMU)、制御部、Bluetooth送信部より構成されている。測定原理は、加速度センサとジャイロセンサの積分値の出力を補間フィルタを用いて義歯の姿勢角を計算する方法をとっている。 初めに実験室で回転盤にIMUを固定し、咬合時における義歯の動きに近似する速度と回転角で精度検定を行った。その結果、測定精度はピッチ、ロール、ヨー角とも3%程度小さい値を示した。これは従来より報告されている赤外線カメラを使用したモーションキャプチャ-システムでの義歯の測定精度と同程度であった。次に臨床で使用できるか検証するために、3名の全部床義歯装着者の上顎義歯の姿勢角を本システムを用いて測定した。IMUは歯科用即時重合レジンで包埋し、両中切歯唇面中央部にワックスにて設置した。10秒間タッピングを行うように指示した。測定結果より被験者間、顎堤の状態、上顎義歯の安定度において有意差を認めた。これより臨床使用できることが示唆された。 本システムはモーションキャプチャ-システムより非常に小型で安価に義歯の動揺(動き)を測定することが可能である。IMUセンサの大きさは13x11x4mm、重量は0.9グラムである。また制御部と送信部合わせた大きさは90x60x25mmと小型である。それに比べモーションキャプチャ-システムは約1x1x1mの空間を必要とする。さらに測定コストを100分の1に削減することが可能である。本システムが実現すれは多くの患者の義歯の調整に役だち、義歯の質を評価する診断機となることが予想される。
|