外乱時に噛みしめを併行していると,前後方向の身体動揺が小さくなり,その収束反応も早くなることが,咬合と姿勢調節機能に関する研究から明らかになっている。本研究ではこれらの報告を踏まえ,上肢挙上運動と咬筋活動の関係について,バイオメカニクス用フォースプレートを用いた足圧中心動揺解析により検索した。被験者は,顎口腔機能に異常の認められない健常男性成人3名(平均年齢31.3歳)とし,あらかじめ実験目的およびその手技に関して十分な説明を行い,同意を得た上で実験を遂行した。筋電図活動は,直径8㎜の皿状電極を用いて左側咬筋,左側三角筋および両側大腿二頭筋より双極導出し記録した。運動課題は左上肢挙上運動とし,手には5.0㎏,10.0㎏,15.0㎏のダンベル保持と何も持たない状態の4条件で行った。被験者は,フォースプレート上に開眼,裸足で立位をとり運動課題を行った。咬筋活動は,5.0㎏以上のダンベルを保持した時に認められ,その活動量は5.0㎏,10.0㎏,15.0㎏の時で,それぞれ平均7.4%(最大噛みしめ時の咬筋活動に対する百分率),22.4%,50.4%であり,重量が増すに従い大きくなる傾向が認められた。また,何も持たない状態,5.0㎏のダンベル,10.0㎏のダンベル,15.0㎏のダンベル保持での上肢挙上運動による三角筋活動開始から開始後50msでの足圧中心総軌跡長の平均値は,それぞれ0.19㎝,0.37㎝,1.11㎝,1.32㎝であった。前後方向最大振幅値はそれぞれ0.11㎝,0.19㎝,0.47㎝,0.54㎝,左右方向最大振幅値はそれぞれ0.05㎝,0.16㎝,0.44㎝,0.62㎝であった。このように保持するダンベルの重量が増すほど,上肢挙上運動時の足圧中心動揺が大きくなる傾向が認められた。以上の結果から,運動に伴う足圧中心動揺と咬筋活動が関わっている可能性が示唆された。
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