本研究は,被験者の感覚決定プロセスを検出力と判断基準に区別して検討することが可能な信号検出理論を歯根膜感覚に応用して歯根膜感覚のROC(受信者操作特性)曲線を作製すること,および歯根膜感覚が物理的および心理的ストレスによって可塑性変化する現象をROC曲線から得られる感度としてのROC曲線下面積(AUC)によって評価,検討することを目的としている. 研究計画書に従って,本年度には『[荷重刺激の呈示-被験者反応の記録]の一元化による完全自動化』を完成させ,健常被験者15名(男性7名,女性8名,平均年齢24.4歳)の上顎左側第一大臼歯の歯根膜感覚のROC曲線を求めた.プロトコールは課題(安静,暗算負荷による心理的ストレス,1分間-10kg重の咬合力ストレス)前後に荷重呈示検査を行うこととした.荷重呈示検査は刺激1(荷重なし),刺激2(10g重),刺激3(15g重),刺激4(20g重)の荷重刺激をそれぞれ25回,ランダムに呈示し,被験者の応答を4段階評価で記録した.それぞれのROC曲線の比較は,各刺激に対するAUCを算出,比較することによって行った. 本研究の結果,安静課題前の刺激2~4のAUCはそれぞれ0.9378(p<0.001),0.9716(p<0.001),0.9852(p<0.001)であり,刺激2のAUCは刺激3および刺激4のAUCに対して有意に低い値であった(vs 刺激3 P=0.0426,vs 刺激4 P=0.0203).刺激2のAUCは安静課題後においても刺激4のAUCに比べて有意に低い状態を維持しており,この傾向は暗算負荷前後でも観察された.しかし,咬合力ストレス後にはこの統計的有意差はみられなくなった. 本研究の結果から,歯根膜感覚の感度評価は可能であるとともに,咬合負荷による物理的ストレス後には歯根膜感覚の感度が減少する可能性が示唆された.
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