研究課題/領域番号 |
25462996
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
田仲 持郎 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (40171764)
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研究分担者 |
松本 卓也 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (40324793)
入江 正郎 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (90105594)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ポリマーアロイ / 海島構造 / ビニルエステル / ポリエステル / セミ相互新入網目構造 / 架橋密度 / 傾斜構造 / 応力集中 |
研究実績の概要 |
歯科用レジンの物性改善を目指して水素結合に着目し,イミノ基を有する塩基性モノマーとカルボキシル基を有する酸性モノマーで構成される共重合系を構築し,水素結合形成に好ましい分子構造及び両モノマーの組み合わせについて検討した結果,塩基性モノマーとしてウレタンジメタクリレートと酸性モノマーとしてメタクリル酸とからなる二元共重合系が機械的特性改善に好ましいことを明らかにし,重合体の一年間にわたる耐水性試験を実施した。重合体の機械的特性は,初期には優れるものの一年間の水中浸漬後では,既存の歯科用レジンと同等となり,水中若しくは湿度100%の環境である口腔内で長期間使用される歯科用レジンの物性改善手法として水素結合を応用することには限界があると推察された。 そこで,複数の熱可塑性ポリマーを熔融混練して調製されるポリマーアロイが特異な特性を発現することに着目して,ポリマー主鎖の絡まり状態を制御することによって共有結合に基づかない歯科用レジンの物性改善の可能性を探索した。そこで,ポリエステル(PE)粉材を膨潤溶解する架橋性ビニルエステル(Di-VE)液材と混和して得られた可塑性を有するPE/Di-VE粉液混和物を成形した後,混和物中のDi-VEを重合することによって粉材表層にセミ相互侵入網目構造を有するポリマーアロイ成形品を創製する手段を考案した。得られたポリマーアロイ成形品は加熱熔融混練して得られる既存のポリマーアロイと同様に,PE粉材表層にDi-VEが含侵して重合した部位(島)とDi-VE液材が重合した部位(海)から成る海島構造を有しており,Di-VEが含侵したPE粉材表層の構造を制御することによって,得られるポリマーアロイ成形品の物性を改善出来ることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二次結合の中でも最も強固な水素結合を活用してポリマー鎖同士を強固に結びつけることが可能であり,その結果,重合体成形品の機械的特性が大幅に改善出来ることを明らかに出来た。しかしながら,歯科用ポリマー材料が使用される口腔内環境(水中または湿度100%)での長期間の使用を想定した一年間の水中浸漬試験を実施した結果,既存の歯科用ポリマー材料よりも機械的特性が低下率が高く,水中浸漬一年後には既存の歯科用ポリマー材料に対する優位性が僅かになることが明らかになった。この結果は,強固な水素結合であっても長期間の水中浸漬では,水が介在することによって解離することを意味した。 そこで,水の影響を受けにくい手段によるポリマー成形品の物性改善を検討した結果,優れた機械的性質と生物学的性質故に歯科義歯床や骨セメント用ポリマー素材として広く用いられているポリメタクリル酸メチル(PMMA)をベースとする優れた医療用ポリマー素材の開発を目指した。具体的には,ポリマー粉材として懸濁重合で調製された球状PMMAを選択し,PMMA粉材を膨潤溶解することを明らかにした架橋性ビニルエステル液材(Di-VE)(特許4517148号)との混和物を成形し,混和物中のDi-VEを重合することによって,求める特性を有するポリマー成形品を創製出来た。特に,Di-VE重合体が極高密度架橋構造時に,特異な物性を発現することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
従来,ポリマーの物性改善はポリマーの構成単位であるモノマーの分子構造をデザインし,そのモノマーを重合する(モノマーが共有結合で繋がる)ことによって成されてきた。しかしながら,元々新規モノマーの合成には多大な労力と時間が必要であることに加えて,合成が可能なモノマーは合成され尽くした感があり,現時点で,新規モノマーを合成することにより,新しい機能を持ったポリマーを作り出すことを益々困難になっている。 我々は,当初,水素結合を用いて疑似的な架橋構造を構築することによって,ポリマー材料の機械的特性改善を試みた。この手法により,機械的特性の向上が可能であることを明らかにしたが,長期間の水中浸漬では,水の介在により水素結合が解離してしまうことも明らかとなり,湿度100%または水中と云う歯科用ポリマー材料が用いられる環境を考慮すると問題も浮彫りとなった。 そこで,共有結合によらず,且つ,水の影響を受けないポリマー材料の物性改善手法を探索した。その結果,ポリエステル粉材とポリエステル粉材を膨潤溶解出来るモノマー液材とで構成される可塑性を持った粉液混和物を成形し,その後に粉液混和物中のモノマーを重合することによって,任意の形状,要求される特性を持ったポリマー成形品を創製出来た。今後,この考えを推し進めて,極めて容易に要求される形状と特性を持ったポリマー成形品の創造が可能であることを明らかにする予定である。
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