咀嚼によるストレス緩和について様々な研究がある。その中で精神的ストレス負荷後にチューイングを行うことによって、ストレスホルモンが減少することを明らかにしてきた。今回、個人が有する咀嚼する能力に着目し、咬合状態がチューイングによるストレス緩和効果に及ぼす影響を検討することを目的としている。咀嚼能力については主に消化に影響を及ぼす要因として位置づけられてきたが、本研究により咬合状態がストレス緩和効果に影響を及ぼす要因となるのであれば、補綴治療前後の咀嚼機能回復の重要性を訴えるための新たな分野の研究と考えられ、今後の歯科補綴学領域における研究として意義深いテーマであると考える。また、本研究が咬合医学の発展の一助となり、歯科医学の観点からのストレスマネージメントによりストレス関連疾患の予防につなげることができる可能性があると考える。 本年度は被験者8名追加し実験を実施した。30分間安静後に、ストレス負荷として暗算を30分間行わせた。その後10分間のチューイングを行い、10分間安静にし、実験を終了とした。ストレス状態の評価の指標として唾液中コルチゾール濃度を測定し、ストレス負荷直後からストレス負荷10分後の変化率を算出した。その他に咬合力、咬合接触面積、チューイング回数を測定した.統計処理は唾液中コルチゾール濃度の変化率と、咬合力、咬合接触面積、チューイング回数との相関についてピアソンの相関係数にて検定した。 咬合力の平均値は594.6±240mg/dl、咬合接触面積の平均値は12.2±4mm2、チューイング回数の平均値は697.2±183回であった。唾液中コルチゾール濃度の変化率と咬合力、咬合接触面積との間に相関関係は認められなかった。唾液中コルチゾール濃度の変化率とチューイング回数との間に負の相関関係が認められた。チューイング回数が多いものが、ストレス緩和が高いことが示唆された。
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