研究課題/領域番号 |
25463040
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研究機関 | 大阪歯科大学 |
研究代表者 |
今井 弘一 大阪歯科大学, 歯学部, 准教授 (90103100)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 歯科用銀合金 / ES-D3細胞 / マウスiPS細胞 / 発生毒性 / 腐食 / 唾液 / 口腔 / コラーゲン |
研究概要 |
歯科用合金は口腔内での摩耗や腐食で組成元素イオンが唾液へ溶解することが知られている。我々は発生毒性スクリーニング法で知られるEST法で使用されるES-D3細胞の細胞分化レベルなどをしらべた.合金を唾液に浸漬して得られたデータと比較する目的で,銀合金の組成元素イオンであるAg,Au,Cu,Pd,Snについて,ES-D3細胞のID50値とIC50値を検討した.ブタ由来のコラーゲンとテラピア鱗由来のコラーゲンを用いた.その結果,AgはID50値,IC50値ともに最も低い値を示し,以下,Cu,Sn,Au,Pdの順に値は大きくなった.いずれもID50値がIC50値よりもやや大きな値を示し,細胞分化に対する影響は細胞毒性の影響より少ないことが判明した.他方,市販銀合金を石膏系埋没材で鋳造し,直径8mmの円盤状金属片を作製した.片面を耐水ペーパーで研磨・洗浄し,オートクレーブ滅菌した.濾過したヒト唾液に37℃で浸漬した.また,人工唾液として市販のサリベートを用いた.ヒト唾液ならびに人工唾液とも浸漬後に合金表面にほとんど腐食が確認できなかったため,合金表面に歯科用ダイヤモンドポイントで多数の傷を付け再度浸漬した.浸漬面にES-D3細胞ならびにマウス由来のiPS細胞のEBsを2日間直接置いた場合、両細胞とも全く心筋への分化が認められなかった.そのため,インターセル内に合金を置き,コラーゲンを厚さ約1mmに分注し,EBsを2日間置いた後に5日間細胞分化させた結果,心筋の鼓動発生率は36%~30%と低い値であった.しかし,ALP染色など他のエンドポイントでは細胞分化への大きな影響が認められなかった.両細胞間で有意差が無かった.今年度で得られた両試験結果は次年度で腐食生成物の影響についてさらに解明する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
口腔内環境における歯科用銀合金の腐食生成物がヒトの発生に及ぼす影響をしらべるために,ヒト唾液に銀合金を浸漬し,合金表面の腐食生成物をES/iPS細胞に接触させて細胞分化させることを目標としてきた.腐食生成物による発生毒性をしらべる場合に基準となる唾液による腐食がない場合の基準データがないことが判明した.そのため,組成元素イオンの原子吸光分析用標準試薬を用いて各金属イオンが強い発生毒性を示すかどうかをしらべた.なお,使用した歯科用銀合金は金属をHClやHNO3などによって溶解されているため,唾液浸漬による影響の差異を解明するために実施した.他方,当初の予定通りに合金を唾液に浸漬し,ES-D3細胞とiPS細胞の発生毒性をしらべた結果,心筋への分化障害が比較的強いことが判明した.当初の目標どおり,腐食生成物の発生毒性の影響が懸念された.今後,さらに詳細なデータを得る必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今後,歯科用金銀パラジウム合金を用いて,基本的に平成25年度の実験方法を踏襲して実施する予定である.なお,当初の予定より銀合金表面に腐食生成物が少なく,歯科用ダイヤモンドポイントで表面に多数の傷を付けることで腐食を促したが,表面の傷の定量化が結果解析に必要であることが判明した.今後,傷を付ける方法を再検討する必要がある.他方,人工唾液として用いた市販のサリベートは臨床に使用されるものであり,組成やpHがヒト唾液からかけ離れている.そこで,合金の腐食に影響する可能性があり,さらにヒト唾液に近い硫化物が多く混合された人工唾液を選ぶ必要があることが判明した.なお,pHも可及的に低い人工唾液を選ぶ必要性を感じた.また,ヒト唾液自体の腐食が激しいため実験結果に影響を及ぼさない範囲での防腐剤の使用も検討すべきであると考える.
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