研究課題
本年度はIL-1が歯肉線維芽細胞(HGF)に作用して、IL-6のシグナル伝達分子gp130の発現を亢進することを確認した。加えて、IL-1raとsgp130の作用を併せ持つ融合タンパクIL-1ra-sgp130を合成し、HGFにおける炎症制御を検証した。最初にIL-1raおよびsgp130のcDNAをpFLAG-CMV-5a(SIGMA)に組み込み、発現ベクターを構築した。その後、293F細胞に導入、発現させたIL-1ra-sgp130をアフィニティーカラムによって精製した。新規に合成したIL-1ra-sgp130は、HGFにおけるIL-1β、IL-6/sIL-6R誘導性のカテプシンLおよびVEGF産生を有意に抑制した。よって、IL-1ra-sgp130はIL-1とIL-6/sIL-6Rによる歯周炎症の進行を同時に抑制制御し得ることが示唆された。一方、主として骨髄に存在する間葉系幹細胞(MSC)は血流を介し、炎症部位へ到達し、組織修復や再生に関与する。しかしながら、マウス骨髄より採取したMSCは増殖能が極端に低い。そこで、生後3週齢のGFPマウス骨髄由来間葉系幹細胞を採取し、不死化を行った。その結果、分化能の異なる複数の細胞株の樹立に成功した。それぞれの細胞株において表面抗原マーカーの発現を解析したところ、95%の細胞株においてMSCマーカーであるSca-1が陽性であった。しかしながら、他のMSCマーカーで発現量に差が認められた。さらにCCL22、Cx3cr1、Prl、Flt3、Prl、CCL12、CXCL13、CCL8のmRNA発現量に差が認められた。樹立された細胞株の違いを詳細に比較することによって、これらの差異を生かした部位特異的な幹細胞治療に繋がる可能性が期待される。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に従って研究を実施した結果、概ね期待される結果を得ることができた。本年度は特にベクター作製に注力し、様々なタイプのプロモーターに連結した発現ベクターを作製することができた。さらにこれらの発現ベクターを形質導入するための間葉系幹細胞を樹立することもできた。一方、ベクターを導入するための手法にエレクトロポレーション法を予定していたが電極等の問題で実施できなかった。しかしながら、それに代わる方法として糖質ベースのトランスフェクション試薬によって代替した結果、良好な結果を得ることができた。したがって、概ね順調に進展していると判断した。
本研究では歯槽骨吸収を伴った重篤な慢性歯周炎治療において、MSCをセル・デバイスとした細胞治療cell therapyの臨床応用を目指した基礎的研究ならびに有効性の証明を目的とする。最終的には歯周炎モデルマウスにおいて、IL-1raとsgp130を発現させたMSCを投与することによって過剰な炎症反応抑制と炎症性骨吸収の改善、歯周組織再生効果が認められることを証明する。最終目的に至るまでに、1)IL-1raとsgp130の安定した発現効率を示すベクターの構築、2)in vitroにおいてMSCが発現する組換えIL-1raとsgp130の炎症抑制効果の検証、3)歯周炎モデルマウスの炎症部位へのtdTomato-MSC集積の確認、および4)抗炎症効果、炎症性骨吸収の改善ならびに歯周組織再生効果を順次検証する。これらin vitro・in vivo両者における実験結果から、歯周炎治療におけるMSCをセル・デバイスとしたcell therapyの有効性ならびに臨床応用の可能性を評価する。本年度に1)が達成できたので、次年度以降は研究計画にしたがって組換えIL-1ra-sgp130の炎症抑制効果の確認と、歯周炎モデルマウスの作製を実施する。
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