研究課題
炎症の誘発やそれに引き続く組織修復は、様々なサイトカインやケモカインによって調節されている。これら複数の因子や細胞が関与する調節機構は複雑であり、未だ全容の解明には至っていない。本年度は歯周組織における炎症を前提とし、歯根膜細胞における炎症性サイトカインの影響を調査した。さらに炎症抑制ならびに組織修復能を有する間葉系幹細胞と歯根膜線維芽細胞の相互作用を明らかにすることで、歯周組織における一連の炎症調節機構を理解する。炎症誘発から組織修復までの一連の過程を理解するために、本年度は歯根膜由来線維芽細胞と骨髄由来間葉系幹細胞のサイトカイン・ケモカインネットワークを介した相互作用を解明した。ット歯根膜由来線維芽細胞様細胞SCDC2をIL-1β、IL-6、TNF-αで処理するとケモカインSDF-1αとMCP-1の発現が誘導されることを見出した。SDF-1αとMCP-1はヒト骨髄由来間葉系幹細胞UE7T-13やGFPマウス骨髄由来間葉系幹細胞SG2の遊走能を有意に促進したが、SCDC2における効果は認められなかった。これらの結果から歯根膜細胞が炎症性サイトカインによって刺激されてケモカインを分泌し、分泌されたケモカインが間葉系幹細胞にパラクリンに作用することで炎症部位への遊走・集積を促進することが示唆された。最終的には炎症部位におけるケモカイン発現誘導ならびに間葉系幹細胞集積効果をin vivo実験系において確認するとともに、得られた知見を臨床へとフィードバックすることを目標とする。
2: おおむね順調に進展している
骨吸収を伴った重篤な歯周炎は、主として局所に浸潤したマクロファージから分泌されるIL-1β、IL-6といった炎症性サイトカインの作用による過剰な炎症反応が要因とされている。本年度はこれら炎症性サイトカインの影響を確認するために歯肉線維芽細胞や歯根膜細胞を用いて作用機序を検証した。その結果、炎症性サイトカインの刺激は間葉系幹細胞の遊走能を促進するケモカインSDF-1αとMCP-1の発現を誘導した。この結果は炎症部位への間葉系幹細胞の集積を意味するものであり、本研究の前提であるセルデバイスとしての間葉系幹細胞の利用を肯定するものであった。したがって、おおむね順調に進展していると判断した。
現在までに歯肉線維芽細胞や歯根膜細胞におけるケモカインの発現や、間葉系幹細胞における遊走促進効果を明らかにした。一方で興味深いことに、ケモカインSDF-1αやMCP-1は歯肉線維芽細胞や歯根膜細胞の遊走を促進しなかった。これらの結果から、炎症性サイトカインによって刺激された歯周組織構成細胞がケモカインを分泌し、分泌されたケモカインが間葉系幹細胞にパラクリンに作用することで炎症部位への遊走・集積を促進する可能性が示唆された。これらの知見を元に、次年度の研究実施計画を記す。1)細胞間接触を介した相互作用の解析:我々が樹立したGFPマウス骨髄由来MSC(SG2、Sawada et al., 2015)を歯肉線維芽細胞や歯根膜細胞との共存培養下で分化させ、骨ならびに脂肪分化に与える影響を調査する。GFPの蛍光をトレーサーとして二種の細胞を分離後に遺伝子発現を解析し、異なる細胞間が相互にどのような影響を与えているのかを明らかにする。2)ケモカインの発現誘導ならびに間葉系幹細胞集積効果の検証:吉永らの方法(2010)にしたがって歯周炎モデルラットを作製し、SG2を尾静脈から注入する。口腔領域の組織切片を作製し、炎症部位への間葉系幹細胞の集積をGFPでトレースすることで確認する。さらに抗炎症性サイトカイン抗体や抗ケモカイン抗体を用いた免疫組織染色を実施することで、炎症性サイトカインの局在とケモカインの発現誘導の相関性について検証する。
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