研究課題/領域番号 |
25463055
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
松永 智 東京歯科大学, 歯学部, 准教授 (70453751)
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研究分担者 |
吉成 正雄 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (10085839)
矢島 安朝 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (10183667)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体アパタイト結晶配向性 / BAp / 顎骨 / 荷重伝達経路 / 歯科インプラント / 応力 |
研究実績の概要 |
歯を介して外部から加わる様々な荷重は、顎骨の構造を維持するために重要な役割を果たしている。特に顎骨の海綿質骨梁は、様々な機能圧の伝達・分散に関与するため、生体力学的に果たす役割は大きい。顎骨内部微細構造における精細な骨質解析と力学機能の評価は、将来のバイオメカニクスに基づく治療計画立案のために一刻も早く完遂されるべき最優先事項である。骨の力学機能は、骨密度のみならずアパタイト結晶のc軸配向性によって支配されることが見いだされている。それ故、皮質骨に加えて海綿骨における生体アパタイトの異方性を考慮した結晶学的アプローチを進めることで、未だ未知の領域である顎骨内部の力学的環境にアクセスすることができる。 本研究ではまず、有歯顎・無歯顎における骨梁の連続的な結晶配向性を算出し、海綿骨領域におけるアパタイト配向性の地図を作製する。生体アパタイト結晶の配向性と力学特性のデータベースとの関係性について精査することで、ヒト顎骨における荷重支持機能の定量的評価を行う。さらに実験動物を用いて、負担過重・低荷重モデルの作製及び解析と荷重方向の違いによる局所応力の偏在傾向と結晶配向性について検討を加える。異なる荷重条件下における顎骨骨梁のアパタイト配向性と力学機能の関連について調査することで、恒常性維持のために必要な力学的環境の一端を解明する。 本研究はこうした新規発想をベースに、材料工学的手法の最先端から、これからの歯科医師に必須であるバイオメカニクス分野の評価基準を設定し、歯科医師による顎骨のナノレベル制御を可能にするものと期待される。将来の骨質を考慮した顎骨再建や再生医療に大きく貢献できると確信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
顎骨内部微細構造のメカノバイオロジー解明のためには、(1)咀嚼過重の負担・緩衝に関与している海綿骨領域のナノレベル特定、およびヒト顎骨における荷重支持機能の定量的評価と、(2)異なる荷重条件下における顎骨骨梁のアパタイト配向性と力学機能の精査による、恒常性維持のために必要な力学的環境の解明が必要である。顎骨内部の応力環境は、アパタイト結晶配向性と力学機能解析によってはじめて可視化と評価が可能となり、その実現に向けてヒト顎骨における定量的解析と動物実験を用いた介入実験を継続中である。 平成26年度は前年度に引き続き、日本人成人遺体より採取した無歯顎骨における配向性3Dマッピングによるアパタイト結晶配向性地図を作製するとともに、ビーグル犬を用いた有歯顎モデル、無歯顎モデル、歯科インプラント埋入モデルを作製して骨密度計測、骨形態計測を行った。同時に大阪大学の設備を借用してpQCT、DEXAによる解析を行い、ヒト試料に関しては計測を終了した。微小領域X線装置を用いた配向計測は、ヒト上下顎大臼歯周囲顎骨に関して解析を終了し、学術論文を執筆中である。動物実験モデルについては、一部計測を終了した。 その結果、上顎と下顎の生体アパタイト結晶の配向性は、同じ歯周囲であっても大きく異なり、マクロな構造特性を補うように配向性が決定されていることが示唆された。特に皮質骨と海綿骨の境界、あるいはその近傍では、移行的にアパタイト結晶の配向性が連続しており、三次元有限要素解析にてシミュレートされた荷重伝達経路に近似した配向性地図が得られる結果となった。一方、歯科インプラント埋入モデルでは、インプラント近傍のみならず眼窩下孔底部などに有歯顎とは異なる配向性を確認しており、歯科インプラントが骨質に及ぼす影響の一端が垣間見える結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、得られた骨質解析データをもとに、配向性3Dマッピングによる顎骨のアパタイト結晶配向性地図を完成させ、力学機能解析データと照らし合わせることで、歯を中心に構築される荷重伝達機構と歯の喪失により変遷する力学的環境を定量的に評価する。ベクトル表記を用いた皮質骨領域を含む配向性地図から、顎骨の応力分散機構を評価すると同時に、FE解析によりシミュレートされた荷重伝達経路と比較し、総合的に顎骨の荷重支持機能を評価する。これにより顎骨の状態に応じていくつかの「パターン」に分類し、臨床所見とのリンクを行い、少ない医療情報から生体力学的な情報を予測するシミュレータに応用する。 また、骨微細構造のパラメータ(骨密度、アパタイト配向性、ヤング率等の力学物性)の部位依存性を精査し、ローカルなin vivo応力状態に対する骨微細構造の最適化について検討する。同時にナノCTを用いた骨小腔の分布及び方向性の解析により、アパタイト結晶の配向性との関連性について学術論文を執筆していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費において端数がちょうど0にならなかったため、無理に使用せず次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
1,655円は、2015年度分と合わせて物品費として使用する。
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