研究課題/領域番号 |
25463063
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
本津 茂樹 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (40157102)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エナメル質修復 / フッ素化アパタイト / 象牙質知覚過敏 / 象牙質透過抑制率 |
研究実績の概要 |
本研究は、新しく開発した極薄HApシートに象牙質固着促進機能と耐酸性機能を付与した、リン酸三カルシウム(TCP)層をもつ機能複合フッ素化アパタイトシートを開発するとともに、このシートを象牙質上へ「速く・強く」固着する技術を確立することで、象牙質上に人工のエナメル質は形成できないという「歯科分野の永遠の課題」を解決し、知覚過敏治療に本シートを適用することにある。 平成25年度では、FHApシート作製と評価に重点を置いた研究を実施し、ターゲット材料の選定およびターゲット作製に成功した。また、このターゲットを用いてFHAp薄膜の成膜条件の最適化、およびFHApシートの膜厚と結晶性制御を確立した。FHAp薄膜のシート化には従来のNaCl単結晶基板に替り、安価な有機溶媒溶解性のレジスト膜をもつSi基板を使用することにより、約100倍の薄膜単離時間の短縮化に成功した。 平成26年度は、固着メカニズムの解明と固着方法の確立を目標とした研究を実施した。今年度は作製に時間を要し、シート枚数が得られないFHApシートに替り、枚数を得ることのできる非晶質のリン酸カルシウム(ACP)シートにより、貼付液の決定と貼付法の検討を行った。最終年度である平成27年度においては、本年度で得られた成果をFHApシートに適応することで本研究の目標を達成する。固着メカニズムに関しては、食事の時に口腔内で生じるpHの変化を模擬した、脱灰-再石灰化法を適応し、1日以内のACPシートと歯質の一体化に成功した。また、このときのシートの歯質に対する固着強度は、引っ張り試験法により2.5 MPa以上(治具が接着剤から剥離)であることを確認した。さらに、象牙細透過抑制率の測定を行い80.5±9.4%のという市販のレジン材(70~80%)より高い値を得たことより、本手法の知覚過敏治療への有用性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①シート貼付法の検討と確立;食事時に口腔内で生じるpHの変化によって生じる脱灰-再石灰化現象を模擬した貼付法を検討した。今年度は作製が困難で枚数が得られないFHApシートに替り、枚数を得ることのできる非晶質リン酸カルシウム(ACP)シートにより、貼付液と貼付法の検討を行った。リン酸カルシウム系水溶液のpHおよび濃度、構成成分を種々変えて、シートを象牙質上へ貼付した。その結果、最適貼付液および貼付手順を確立することができた。 ②固着メカニズムの解明;ヒト抜去歯歯冠部の象牙質露出試料を用い、再石灰化のメカニズムについて検討した。メカニズムの解明にはシート貼付後のXRDパターンの変化、再石灰化の評価は象牙質にシートを貼付した試料を貼付面に対して垂直に切断した断面観測用試料を作製し、界面付近を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する手法を用いた。膜厚の異なるシートを貼付して、象牙質との界面を評価した結果、薄いシートほど象牙質界面に沿って密着することがわかり、貼付直後は表面張力作用し、この力の中で界面が脱灰、再石灰化して固着していくことが明らかとなった。 ③シートの機械的特性の評価;引張り試験により象牙質とACPシートの間の固着強度を測定した。その結果、約3MPa程度の固着強度であったが、接着ボンドからのジグの剥離であったため、実際のシートの固着力はさらに大きいと思われる。また、実施予定であった硬度の測定に関しては、マイクロビッカース硬さ試験を行う予定であったが、ブラッシングテスト後の計測が望ましいとの判断で、まだ実施していない。 ④象牙細管の封鎖効果の評価;象牙細管の封鎖状況を、Dental fluid(DF)として親ウシ血清を用いた象牙質透過性の抑制率の測定より評価した。その結果、80.5±9.4%という、市販のレジン法より高い値が得られ、本手法の知覚過敏治療への有用性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度は、まずH25年度からの課題であるFHApシートの耐酸性についての評価を実施する。次に、非晶質リン酸カルシウム(ACP)シートで確立した貼付液と貼付手法をFHApシートに適応することで、最終目標である市販のレジンの象牙質透過抑制率(70~80%)以上をもつ、「速く・強く」固着するFHApシートを開発するという本研究の目標を達成する。 ①FHApシート貼付法の検討と確立;FApシートは耐酸性があるので、シートにα-リン酸三カルシウム(α-TCP)接合層を付加する。このα-TCP層はPLD法により薄膜の形で約100 nm積層する。また、レジストを溶解して薄膜を単離してシート化する際に、シート表面に付着したカーボンを除去するとともにシート表面を親水化する目的で、シートへのUV光照射を行い、表面改質を実施する。 ②固着メカニズムの解明;ヒト抜去歯歯冠部の象牙質露出試料を用い研究を進める。再石灰化のメカニズムはACPシート同様に、シート貼付後のXRDパターンの変化を測定することで検討する。また、FHApシートと象牙質界面付近をSEMで観察する手法を用いて、再石灰化の評価を行う。 ③シートの機械的特性の評価;引張り試験およびブラッシングにより評価する。レジンと同様に10MPa以上の固着強度と貼付後10min後のブラッシングに耐えることを目標する。また、硬度に関してはマイクロビッカース硬さ試験を行い、貼付後一ヶ月においてエナメル質と同等の硬度400程度を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
FHApシートの耐酸性を評価するための雑費(その他)を確保していたが、FHApシートの作製に時間がかかったことと、年度末の分析評価装置の使用頻度の高さから測定を実施することができず、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
FHApシートの耐酸性を評価するための雑費(その他)として使用する。
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