研究概要 |
上皮細胞は病原微生物の侵入に対して,最前線に位置し,物理的な生体防御機能を有している.病原微生物による上皮の崩壊,宿主 の自己防衛免疫機構の障害ならびに病原微生物の感化によって,感染症は惹起される. 歯原性上皮細胞とは歯胚の外胚葉成分から発 生した細胞成分である.歯胚の形態や細胞の分化は,歯の形成過程において,外胚葉性組織(上皮)と外胚葉性間葉の両者の複雑な誘導的相互作用によって制御されている. 歯根嚢胞は歯原性上皮(残存上皮)が増殖する疾患の中で比較的発症頻度の高い疾患で,根管治療を施しても治療困難な程増大した歯根嚢胞に関しては歯根端切除術あるいは抜歯が余儀なくされ,歯牙の予後に大きな影響を与 えている.しかし,その発症機序,増殖機構に関しては未だ不明な点が多い.本研究では,歯根嚢胞上皮の増殖には自己防衛反応としての免疫反応が機能し,細菌感染に対する歯根嚢胞上皮の増殖は感染の波及を止めようとする自己防衛的な反応であると仮説し,歯原性上皮細胞の感染防御機転を解明することを目的としている.今年度は,歯根嚢胞上皮摘出切片における上皮間葉系マーカーの発現解析を行い,炎症の急性期から慢性期に移行する段階で,炎症性細胞の減弱と共に上皮細胞が増加する傾向が示され,薄い重層上皮から厚い重層上皮へ移行する様相が確認された.さらに歯原性上皮細胞株(HAT7,HERS01)を用いた実験において,LPS刺激環境下で上皮系マーカーの発現増強を認めたが,間葉系マーカーの発現に変化は確認されなかった.
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今後の研究の推進方策 |
(1)歯根嚢胞,歯根肉芽腫摘出切片における増殖因子,EMT関連物質の局在性の検討(嶋,田中,石畑,中村):免疫組織学的染色法を利用した歯根嚢胞,歯根肉芽腫における増殖因子(IL1,6,KGF,EGF,TGF-β,Notch)ならびにEMT関連物質(E-,N-cadherin,Vimentin)の局在性を確認する.パラフィン固定された歯根嚢胞,歯根肉芽腫組織切片を4μMに切り出す.一次抗体(IL1,6,KGF,EGF,TGF-β,Notch,E-,N-cadherin,Vimentin)はいずれも200~400倍希釈で使用する.上記(1)の実験段階で確認された増殖因子が,摘出組織に特異的に染色され,局在性を確認する. (2)細菌感染HAT-7ならびにHERS01aにおける,増殖因子(IL1,6,KGF,EGF,TGF-β,Notch)ならびにEMT関連物質(E-,N-cadherin,Vimentin)の遺伝子学的発現ならびに組織学的局在性についてPCR, real time PCR,細胞免疫組織学的染色を用いて確認する(石畑,田中,小松澤). ・具体的には,HAT-7ならびにHERS01aに細菌産生毒素(LPS)を暴露させ,real time PCRを用いて増殖因子(IL1,6,KGF,EGF,TGF-β,Notch)ならびにEMT関連物質(E-,N-cadherin,Vimentin)の発現量を解析する。
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