研究実績の概要 |
本研究は、さまざまな癌細胞に発現しているがん抗原Wilms' Tumor 1(WT1)をターゲットにした光線免疫療法による低侵襲な口腔癌治療の開発を目的とした。まず、ターゲットとなるWT1の発現をヒト口腔癌細胞株(HSC-2, HSC-3, HSC-4, SAS, Ca9-22)および口腔癌患者からの検体を用いて免疫細胞染色および免疫組織化学的手法により検討した。その結果、WT1の発現は予想に反して口腔癌細胞株ではほとんど認められず、また口腔癌組織ではその発現率が低いことが示された。このことから、ターゲットをWT1から消化器癌(大腸癌、膵臓癌など)に発現しているがん抗原MUC1に変更した。MUC1は癌の免疫治療である樹状細胞ワクチン療法に利用されており、特に消化器癌において良好な治療成績が示されていること、また口腔癌細胞にも発現しているとの報告があることからこのMUC1を光線免疫療法のターゲットに選択した。さらに使用する抗MUC1抗体については、腫瘍に関連したMUC1エピトープに特異的結合する抗体を選択した。まず、口腔癌細胞株にこのMUC1が発現していることを確認するために口腔癌細胞株および口腔癌組織を用いて検討したところ、口腔癌細胞株間に差はあるもののMUC1の発現があることを確認した。 最終年度では、近赤外線に反応して殺細胞効果を示す化合物であるフロシアニンと抗MUC1抗体との複合体(抗MUC1抗体複合体)を作製し、その殺細胞効果についてヒト口腔癌細胞株にて検討を行った。方法としては、ヒト口腔癌細胞株の培養液中に抗MUC1抗体複合体を添加して6時間培養後に近赤外線(690 nm) 2.0 J/cm2にて照射を行った。その結果、照射直後より癌細胞の細胞膜は破壊され徐々に細胞は死滅した。一方、近赤外線の照射単独では癌細胞を障害されなかった。これらの結果からがん抗原MUC1をターゲットとした光線免疫療法は低侵襲な口腔癌治療としての可能性が示された。
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