本研究の目的は基礎および臨床の両面からの研究により、がん化学療法による味覚障害の発現機序を解明し、合理的な対策の端緒をつかむことを最終目的としている。 基礎的研究:ラットを用いた動物実験において、アルカロイド系抗癌剤パクリタキセルの味覚への影響をラットの嗜好性が著名に高い甘味(ショ糖)・嗜好性の高い塩味(低濃度)・忌避反応を示す塩味(高濃度)を用いて2ビン法にて検討した。抗癌剤パクリタキセルをラットへ腹腔内投与することにより味覚への影響を検討したところ、甘味はもっとも影響が大きく嗜好性の低下が観察され、また低濃度の塩味にも嗜好性低下傾向がみられた。高濃度塩味に関しては忌避反応が抑制される傾向が観察された。これらの結果から抗癌剤パクリタキセルは、甘味および低濃度の塩味、高濃度塩味に対して感度の低下を引き起こすことが示唆された。さらに高濃度の塩味に対する忌避は酸味と苦味の味覚トランスダクションに関与しているとの報告がある。抗癌剤パクリタキセルは酸味と苦味にも影響することが示唆された。 また代謝拮抗薬フルオロウラシルによる味覚変化についても、アルカロイド系抗癌剤タキソール同様に嗜好性の高い甘味・低濃度の塩味を用いて検討した。 臨床研究:長崎大学病院血液内科および第一外科・第二外科の協力を得て臨床研究を行った。血液内科では、R-CHOP療法による治療を行っている患者を対象に味覚の変化について検討した。また第一外科・第二外科では、FEC100療法およびドセタキセルによる治療を行っている患者を対象に味覚の変化について検討した。それぞれのレジメンにより味覚変化に違いがあり、抗がん剤による味覚への影響は薬剤により異なることが示唆された。
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